東洋医学から学ぶ秋の養生法

この連休、久しぶりにスーパーに出向くと、もう店先はぶどうや栗、松茸など多くの秋の味覚で彩られていました。

一方、在宅の患者さん宅からは、熱がある、おなかが痛い、反応がおかしいなど連絡がありその対応に追われました。

ここ数日、雨で日中の気温が17℃位の日もあれば、翌日晴れて25℃以上になったり、天候と気温の変化が激しかったせいもあるのでしょう。

在宅診療を毎日行っていると、時々ほとんどの患者さんの血圧が上がっている日や下がっている日に出くわします。これらも天候や気温の変化が大きい時に見られるという印象です。

人の体と気候との関係は大いにあると皆が分かっていても、医学的な研究や証明が多くなく、なかなか予防までは至らないようです。

しかし、東洋医学では体全体を気候や食との関係で診るので、何かヒントがあるかもしれません。

東邦大学東洋医学研究室の田中耕一郎先生は東洋医学の気象学の分野からこのあたりを上手に説明してくれています。

日本の上空にはシベリア気団、オホーツク気団、揚子江気団、小笠原気団の4つの高気圧が季節ごとに押し合いへし合いをしながらやってきます。夏に力を有していた小笠原気団は秋に近づくと南方からの熱量の供給が弱まり影響力が低下してきます。

すると北から冷涼で乾燥したオホーツク気団がやってきて、小笠原気団とせめぎあい、やがて追いやる形となります。この時期を処暑といい、夏の熱、湿が終わりを告げます。

中国のことわざ「一場秋雨一場涼」(秋雨ごとに寒くなるという意味)があるようにこの時期の気候の特徴は、日中は暖かく、日が暮れると涼しくなるように昼夜の気温差が激しく、湿度が低くなることです。

 

この時期に身体の中で最も影響を受けやすいのは肺で、東洋医学における肺は呼吸の肺の他に鼻と皮膚を合わせたものを示します。

病邪(感冒の原因)は体表から肺に向かい徐々に内部に侵入してくるので、それを阻止するためには体表部を鍛えなければならないという考えが基本にあり、乾布摩擦などはその一例といわれています。

 

漢方薬で対応する場合、麻黄湯、葛根湯、桂枝湯が主に処方されます。これらの薬は体表部の血流や筋緊張の調整を通じて、感冒症状の改善のために用いられてきましたが、最近の研究では抗ウイルス効果もあることが分かってきました。また麦門冬湯は肺を潤し、当帰飲子は皮膚の掻痒や乾燥防止に役立ちます。

 

東洋医学において肺は最も弱い臓とされ、大気の寒暖や乾燥に容易に影響を受けるほか、精神的な影響も受けやすいと考えられています。肺は悲しみ、憂いの感情を担当していると考えられ、空虚感を背景として生まれてくる“ため息”などはその一つといわれています。

つまり、肺が弱いと悲しみや憂いの感情が強く出てくるので注意が必要となります。

この時期は夏の疲れがもとで倦怠感が出て気虚という状態になり、気分の落ち込みやうつ症状を呈しやすいため、夏よりペースを落としつつ生活を送ることが大切です。

 

睡眠においては、夏より少し遅めの起床にして、昼に仮眠をとることで、夏の暑気により消耗した“気”をこの時期に回復させることができます。“気”は古代中国では生命の根源や自然の摂理と考えられ、現代でも気にはエネルギーが宿りさまざまな現象を引き起こすものと言われており生きる上でとても大切なものです。

 

秋の食材は“小辛多酸”といって、辛いものは少なめに、酸っぱいものを多めに取るという考え方があります。

辛いものは身体に熱をもたらし、発汗作用があります。秋の気温低下にはある程度必要ですが、乾燥症状を悪化させるので少量に留める方が良いとされます。

酸味は粘膜からの分泌作用を促し、体を潤す作用があります。そのために秋の乾燥に対して酸味は重要な味となります。ただ、多くの酸味は体を冷やす作用もあるために、辛いものを少量合わせてバランスをとる必要があります。

これらは味覚から身体を調整するという東洋医学の考え方です。

 

代表的な食材の一つに梨があります。梨の果汁には潤肺作用がある一方、寒性の食材で体から熱を奪う作用があるため食べ過ぎは禁物です。

それを補うために温性で潤肺作用のある蜂蜜と合わせて、梨を加熱することで潤肺作用は高まり、梨の寒性は相殺されます。

また柿にも潤肺作用がありますが、これも寒性の食材のため、寒性が減弱される干し柿の形で取ると良いようです。

他に百合根や白きくらげも潤肺作用のある食材とされており、これらも温めて用いると効能がより引き出されます。

 

この時期は東洋医学的な“気”をいかに落とさず過ごすかが大切です。

 

そのためには華奢な肺を弱らせないように、睡眠や食材の工夫をし、適当な漢方を用いてみてはいかがでしょうか。

 

秋の夜長を気分良くゆったりと過ごしたいものです。

 

 

photo: Ozarks Living Magazin

 

ビタミンDはがん治療のサポート役としてとても大切

Vitamin D containing foods, top view

ビタミンDといえばカルシウムや骨に関係する大切なビタミンと多くの人は知っていますが、それ以外の働きは?と聞かれるとなかなか答えられないものです。

2013年2月のブログでご紹介したようにビタミンDはアレルギーの調整、免疫系の賦活、糖尿病や心臓、血管そしてがんのリスク低減に関係しています。

最近ではビタミンDが子宮、卵巣の質や環境の改善とともに妊娠しやすい体作りを助けることが分かってきました。また、小腸粘膜上皮細胞の成熟の促進や腸管免疫の機能強化など腸との関係も明らかになってきています。

これらはビタミンDが細胞膜のビタミンD受容体への結合によるシグナル伝達系の活性化と、細胞の核内受容体への結合による遺伝子発現の調節により細胞に変化をもたらすためです。

またビタミンD受容体は核内受容体スーパーファミリーの一員で、ヒトの遺伝子の約3%の制御に関わるともいわれ、炎症、免疫、発がん、細胞増殖と分化、アポトーシスなどの生理機能に影響します。

特にがんとビタミンDの関係では、細胞膜受容体での反応と核内受容体での反応において興味深いものがあります。

体内には細胞間のシグナル伝達に係るWntタンパク質があり、これが細胞膜の受容体につくと細胞質内にあるβカテニンが活性化されます。βカテニンは細胞増殖や細胞周期に係る遺伝子に働きかけたりしますが、遡ってWntを制御する働きもあり、βカテニン自身が増え過ぎないように調整しています。

しかし、これが異常をきたすとβカテニンが増えて細胞質や核に蓄積し、がん化の原因になります(2008 山本)。

また、Wntシグナルの活性化が細胞老化、個体老化を促進させる方向に機能しているといった意見もあります(2012 塩島ら)

そして、このWnt/βカテニンシグナル伝達系は多くのがん細胞で異常を起こしており、がん細胞を増殖させます。

よって、この伝達系を阻害することががん治療のひとつであり、その阻害活性を持つ物質にはセレコキシブなどの非ステロイド性抗炎症薬やアスピリン、ポリフェノール、ビタミンAとDなどがあると報告されています(2010 高橋)。

特にビタミンDは核内のビタミンD受容体と結合し、βカテニンの転写活性を阻害することでがん細胞の増殖を抑制する方向に導くことが分かってきました。

Wnt以外の経路においてもビタミンDによる増殖抑制、分化誘導、アポトーシス誘導作用が報告されています。

ひとつはビタミンDが核内受容体に結合後p21遺伝子が発現上昇し、細胞周期のG0/1停止となることで細胞増殖は止まり、アポトーシス(細胞死)が導かれると言われています(1996 Freedman)。

またビタミンD受容体結合におけるリガンドに着目し、さまざまなビタミンD誘導体を作った実験では、いくつかの誘導体ががん細胞の核内受容体を介した分化誘導(がんを悪人から善人にかえる)と核内受容体に関係なく細胞膜の受容体を介してアポトーシスを導くメカニズムが報告されています(2002 中川)。

このようにビタミンDは細胞の奥深くまで入り込んで細胞に影響を与えるのです。

核内受容体と結合するビタミンDは1α25(OH)2ビタミンDという活性型であり、体内のビタミンD濃度は活性化される前の段階の25(OH)ビタミンDを測定します。

その濃度とがん発生率をみた疫学調査では大腸がんや乳がんで25(OH)ビタミンDの血中濃度が高いほど、がんの発生率が低下していました。

実際に閉経後女性に1日1100IUビタミンDをカルシウム併用の有無で飲ませたRCT試験では、カルシウム併用ビタミンD摂取ががんの発生リスクを77%も低下させました(Lappe, Am J C N 2007)。

また乳がんのハイリスクの女性に1日2000UのビタミンDをセレコキシブ併用で飲ませたところ、ビタミンDの濃度上昇により乳房保護作用が示されました(Qin, Antcan R 2016)。

ビタミンD単独でがんに効果があったというような報告はまだ見当たりませんが、何らかの物質と併用することで、ある程度の効果が期待できそうです。

 

ところで、DNAの遺伝子がDNAやDNAが巻き付いているヒストンタンパク質がメチル化されることで、さまざまな表現型が作られる場合があります。

これをエピジェネティックな変化といい、加齢による老化ではDNAのメチル化が関与しています。

また、がんにおける遺伝子プロモーター領域のDNA異常高メチル化はp53などのがん抑制遺伝子を抑制し発がんを促します。

よってがん予防や治療にはこのエピジェネティクスの制御が必要になります。

つまり抑制されているがん抑制遺伝子を活性化したり、活性化されている発癌遺伝子を抑制することです。

がんに対するビタミンDの単独療法では効果が不十分なこともあり、最近ではエピジェネティクスな部分に作用するヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤との併用で相乗効果が見られた報告があります(Bijian,J Ster Bio M B 2017)。

また短鎖脂肪酸ブチレートにはHDAC阻害作用があり、一部臨床で用いられているフェニルブチレートをビタミンDと併用することでエピジェネティクスなアプローチでがん治療を行える可能性があります。

大事なことは、25(OH)ビタミンDの血中濃度を引き上げることです。

その濃度は30~40ng/mlが望ましいと言われていますが、測定してみるとほとんどの人が20ng台と低値です。よってビタミンDを積極的に摂らなければなりません。

がん予防には1日1000~2000IU(25~50㎍)で、再発リスクが高い場合や進行がんの場合は1日2000~4000IU(50~100㎍)摂ると良いと言われています。

この量を処方薬のアルファロールなどの活性化ビタミンDで摂ろうとすると保険がきかないばかりか、かなり大量になり高カルシウム血症の危険もあり現実的ではありません。

一方、25(OH)ビタミンDでは大量に摂れて、必要に応じて活性化されるので1日250㎍の上限を守れば副作用の心配もありません。

当院ではがん予防やがんの方にも1日5000IU(125㎍)処方していますが特に問題はありません。

ビタミンDはがんだけでなく体内でプラスの方向に働く大事なビタミンなので、まずはご自身の血中濃度を測定して少なければ補充してゆく習慣をつけた方が良いでしょう。

picture: antiaginggroup.com

 

運動器の老化も酸化ストレスが原因だった!すぐにビタミンCをはじめよう

体のサビが糖尿病、認知症やがんなど様々な病気の原因になるとよく言われています。

サビとは酸化のことで、体が酸化するつまり、細胞が酸化されると細胞は機能不全に陥ります。細胞がダメージを受ければ当然体もダメになります。よって体をサビさせない抗酸化がとても大切です。

今まで、内臓や血管などの臓器に対して酸化の弊害が多く論じられていますが、骨、軟骨、筋肉などの運動器の基本的パーツに対しては注意がされていない印象です。

骨、軟骨、筋肉はサビるのでしょうか?

順天堂整形外科の野尻先生は運動機能の低下が介護状態をもたらすロコモティブシンドロームと酸化ストレスの関係を研究しており、運動器の酸化について最近とても興味深い結果を数多く出されています。

まず酸化ストレスとは生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、酸化が多くなった生体にとって好ましくない状態であると定義されています。

どうして酸化が進むか?

私たちが吸った酸素は細胞に届き、細胞内で酸素を使ってブドウ糖からエネルギーを作る際に細胞内のミトコンドリアから活性酸素が出てきます。この活性酸素が細胞を酸化させサビの原因になります。

つまり、エネルギーを沢山作ろうとするとミトコンドリアがフル回転して活性酸素を大量に発生させます。

活性酸素にはスーパーオキシドや過酸化水素などがありますが、なかでもヒドロキシラジカルという活性酸素が最も反応性に富み細胞毒となります。

マラソンなどの激しい運動を続けると活性酸素が体内に充満し、あまりよろしくない状況に陥ります。

しかし、幸いなことに私たちの体内にはこの毒を消す酵素が備わっています。それがSOD(スーパーオキシドデスムターゼ)という酵素です。

ただ、残念なことにSODは加齢とともに減少してゆくのです。

SODには細胞質内にあるSOD1とミトコンドリアに局在するSOD2があります。

野尻先生たちは酸化ストレスから私たちを守るこのSODが少なくなると運動器にどういった変化が起こるか、骨、軟骨、筋肉の順で、人為的にSODを持たなくした遺伝子欠損マウスを使って調べました。

まず、骨においてSOD1欠損マウスでは骨内細胞を培養するとスーパーオキシドが増えてきて、アポトーシス(細胞死)が起こるようになり、結果的に骨の質の低下をもたらしました。骨の質と量が低下すると骨粗鬆症に陥ります。

さらに実験を進めるとSODは骨量減少、骨質劣化や廃用性骨萎縮の防御に働いていることがわかりました。

またSOD2が欠損するとやはりスーパーオキシドが増えて骨形成の低下、骨吸収の増加が起こり骨細胞間のネットワークの破綻とともに骨量の減少が起こりました。このことからSODは良い骨を維持する上でとても大切であることが示されました。

軟骨においては変性が進むことで高齢者を悩ます変形性膝関節症が問題となります。じっとしていても膝が痛い。動かすとなお痛い。だから動かない。動かないと膝が固まり寝たきりになる。とても怖い病気の一つです。

これも遺伝子の研究からSOD2の減少が関係していると言われていました。

野尻先生たちは軟骨に特異的なSOD2欠損マウスをつくり、ストレスを加えたところ軟骨の変性がより強く表れました。これを深く調べていくとミトコンドリアの機能不全による細胞外基質の形成不良が関係していることがわかりました。つまり、軟骨におけるSOD2の減少によるスーパーオキシドの増加が変形性関節症の原因であることを突き止め、軟骨においてもSODの必要性が示されました。

骨格筋においても骨格筋に特異的なSOD2欠損マウスを使って調べたところ、筋肉持久力や走行能力の低下がありました。細胞レベルで調べてゆくとミトコンドリア内膜にある呼吸鎖複合体というタンパク活性の著しい低下により筋肉内のATP、エネルギーがほぼ枯渇している状態でした。つまりSODがないと筋肉は働くことができず、骨格筋でもSODが大切であることがわかりました。

 

以上よりスーパーオキシドによる酸化ストレスが運動器加齢変化の原因であることが今回の研究によって示されたわけです。

つまり私たちにとって大切なことは酸化ストレスを制御することで加齢変化を遅らせロコモティブシンドロームに陥らないようにすることです。

そのための予防戦略として野尻先生は①SOD活性をもって活性酸素を消去するようなSOD類似物質、抗酸化薬の投与 ②SODを活性化させるような遺伝子の上流の制御 ③下流の制御をあげています。

そこで抗酸化薬の投与の中でビタミンCを用いSOD1欠損マウスを使って調べたところ、ビタミンC摂取量と骨密度が正の相関を示し、骨量と骨強度が完全に回復しました。軟骨に対しては親油性にしたビタミンCをSOD2欠損マウスに注射したところスーパーオキシドは減少し、軟骨変性を軽減させる結果が得られたようです。

また、SODの上流には長寿遺伝子と呼ばれているサーチュイン遺伝子があり、これを活性化するためにはカロリー制限やレスベラトロールまたはNAD(ニコチンアミドアデニンヌクレオチド)などが必要であると野尻先生は述べています。

 

やはり運動器においても他の疾患と同様に酸化ストレスが悪さをしてサビることが明らかになりました。

特に運動器がやられると健康寿命が短くなり、亡くなるまで寝たきりで、つらい日々を送らなければなりません。

よって単なる長生きではなく健康寿命を延ばすために、私たちは日々抗酸化の努力をし続ける必要があります。

さまざまな抗酸化アプローチがありますが、まずはビタミンCを摂ることからはじめてみてはいかがでしょうか。

photo: seattleorganicrestaurants.com

糖質はメイラード反応を介して病気の元になる

糖質を摂りすぎると体調不良や病気になります。

糖質は生きていく上で絶対必要なものですが、過剰になると体内で変な反応が起こり細胞に悪影響を及ぼします。この変な反応の一つがメイラード反応です。

一方、メイラード反応は体外でも見られ、美味しそうなパンの皮の褐色や味噌や醤油の褐色変化はこの反応によるものです。食品の見た目、味、香りにはプラスですが、食品中のタンパク質やアミノ酸の生体利用性を低下させたり、ポテトチップスに含まれ発癌物質であるアクリルアミドの生成に関与したり、発癌物質生成を促す反応としてマイナス面があります。

そもそもメイラード反応は“タンパク質”と“糖”との間の濃度と温度と時間に規定される非酵素的な化学反応であります。具体的にはタンパク質のアミノ基-NH2と糖のアルデヒド基-CHOが出会いアマドリ化合物が形成されその後、脱水、縮合、酸化、転移などの反応を経て最終的にAGEs(糖化最終産物)がつくられます。アマドリ化合物を代表する有名な物質として糖尿病の重症度を示すヘモグロビンA1cHbA1c)があります。そして、AGEsはその沈着により皮膚のくすみやしわ、骨粗鬆症、白内障など体の老化を引き起こします。

体内にはさまざまなタンパク質があり糖と出会うことによりメイラード反応が起きます。その中にはヘモグロビンの他にアルコールデヒドロゲナーゼなどの酵素類やアルブミンなどの血漿タンパク、インスリンなどのホルモン、コラーゲンやケラチン、赤血球などの細胞膜タンパク質があります。

さらに、DNAはリン酸,糖、塩基で構成され-NH2を持っておりDNAにもメイラード反応が起こります。DNAが外部環境により変化するといったepigeneticな修飾は酵素的なメチル化だけでなく、非酵素的なメイラード反応の中間代謝産物のメチルグリオキサールが関与しており、病的な修飾が起こり得ます。

メイラード反応の厄介なところはアマドリ化合物が自己酸化の過程で活性酸素種を発生することです。活性酸素種には過酸化水素や一酸化窒素、スーパーオキシドと最もたちの悪いヒドロキシラジカルがあります。ここで発生するフリーラジカルは反応性が高く体内の細胞を傷つけます。ラジカルがDNAを攻撃した場合、DNAが変化し細胞が癌化する恐れもあります。一方、好中球が生成するスーパーオキシドは殺菌作用や抗腫瘍効果のメディエーターであり生体防御で大きな役割を果たしている側面もあります。

また体内には活性酸素を消去する仕組みが備わっており、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)やカタラーゼがその役割を演じます。

もし体内でこれらが足りなくなるといけないので、常にビタミンCやビタミンEなどの抗酸化剤を取っておく必要があります。

老化や病気の原因の一つに酸化ストレスがあります。酸化ストレスとは体内で過剰に発生した活性酸素がタンパク質、核酸(DNA)などの生体成分を酸化し臓器障害に至らしめることです。

メイラード反応はこの酸化ストレス原因になるだけでなく、ストレスをさらに増大させるので注意が必要です。

糖尿病のように長時間にわたる高血糖状態では体内でタンパク質と反応しメイラード反応が起こりますが、2011年IDF(国際糖尿病連合)のガイドラインによると2型糖尿病患者では慢性的に持続する高血糖よりも食後血糖値の急激な変動の方が酸化ストレスおよび内皮機能に対する誘発作用がより顕著であり、食後高血糖の治療によって酸化ストレスや炎症、内皮機能不全、血栓症を改善することができると明記されました。

2016年10月のNHKスペシャルでは“血糖値スパイクが危ない”と食後高血糖が血管病変だけでなく、突然死やがんにも関わることが紹介され、この認識が広く知れ渡ったようです。

実際にHbA1cとがん罹患の関係でHbA1cの上昇とともに特に6.5以上でがん罹患リスクは1.43と高まり、高血糖はメイラード反応を介してDNAを変化させがんリスクを高めると考えている人もいます。

また糖尿病の患者のアルツハイマー病発症リスクは健常者の1.42.4倍であり、脳内にたまるアミロイドβがメイラード反応の産物の可能性があることから高血糖がメイラード反応を介して認知症に関与するという考え方もあります。

そして九州大学の調査では糖尿病患者でなくても、(空腹時血糖ではなく)負荷後2時間の血糖値が認知症に相関することが示されました。

よって、食後高血糖にならないような食事法が大事です。つまり糖質制限で行われている食事の量や順番(野菜タンパク脂肪糖質)、GI値の低い食材の選択などが必要です。

一方、糖尿病薬のメトホルミンという薬は糖尿病だけでなくがんやアルツハイマー型認知症にも有効といわれています。その理由としてメトホルミンは分子中にアミノ基を有する化合物であり、メイラード反応を阻害するようなので、今後積極的に使われることが望ましいかもしれません。

厳密な糖質制限は長持ちしないので、少し緩めの糖質制限(米、パン、ラーメンを自身が満足する量の半分にする)をはじめて食後高血糖にならないよう注意しましょう。

また、糖尿病にならないよう運動を取り入れましょう。

photo: myvega.com

 

ロコモ フレイル サルコペニアを理解し健康寿命をのばそう

最近至る所でフレイル サルコペニア ロコモティブシンドロームなど高齢の方々向けの言葉が多く聞かれるようなりましたが、統一された定義がなく、それぞれの意味と関係がいまひとつ分かりにくいようです。
そこで私なりに少し整理してみようと思います。
フレイルは2014年に日本老年医学会がFrailty=弱さから作った造語で、加齢による予備力低下が原因で、些細な外的因子に対して健康被害をきたしやすい状態を言います。

サルコペニアは以前ブログで書いたように、ギリシア語で「肉」を表すサルコと「喪失」を意味するペニアを合わせた造語で、筋肉が無くなることを意味しています。主に進行性および全身性の骨格筋肉量や骨格筋力の低下により身体的障害や生活の質が低下するような状態を示し、筋肉をメインにした言葉です。

ロコモティブシンドローム(ロコモ)は10年前に日本整形外科学会が提唱した言葉で、筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、立つ、歩くといった移動機能が低下している状態を示しています。

フレイルには糖尿病、心臓病、認知症などの加齢による慢性疾患が背後に存在している場合が多く、長年の生活習慣が影響を及ぼします。
フレイルの診断基準としては①体重減少(年間5%以上)②疲れやすい(何をするのも面倒だと週に3,4日以上感じる)③歩行速度の低下④握力の低下⑤身体活動量の低下のうち3項目以上を示すものとされます。
またフレイルは身体的なものだけでなく、認知能力や精神的、社会的な面も関係しており、少し動ける人から寝たきりの人も含まれるので割と幅広い概念であるともいえます。
フレイルに適切な治療などの介入をすれば、健康の方向に戻すことも可能ですが、介入をしないと身体機能障害が進み死に至る危険性があります。

一方、ロコモティブシンドロームには移動機能を調べるロコモ度テストがあります。①下肢筋力を調べる立ち上がりテスト②歩幅を調べる2ステップテスト③痛みやしびれ、日常生活動作などの25項目の問診に答えるロコモ25の3つのテストからロコモ度1or2を判定します。
ロコモ度1は移動機能の低下が始まってきていることを示し、ロコモ度2は移動能力の低下が進行して自立した生活ができにくいことを示します。
因みに40歳以上の日本人でロコモ度1は4590万人、ロコモ度2は1380万人いると言われています。
もともと整形外科学会としては人々が要介護にならないように移動機能という面から注意喚起をして予防するためにロコモを提唱したので、フレイルという状態の前段階を示しているように私は感じます。
実際にフレイルにならないようにロコモ対策をしようとロコモとフレイルの連続性を言う老年内科の先生も出てきているようです。

サルコペニアの診断は60歳以上で①歩行速度②握力③筋量の測定により行われ、日本では370万人と推定されています。
整形外科医的にはその数倍は存在する印象があり、このロコモより圧倒的に少ない数に驚きを感じます。
よってサルコペニアはロコモより重症なものとしてフレイルの中の一病態と考えた方がしっくりきます。

厚労省のホームページによるとフレイルとサルコペニアの関係において、Frailty cycleの中にサルコペニアを位置付けています。
つまり、サルコペニアになると筋力、活力の低下で身体機能と活動度が低下し、さらに基礎代謝が低下することで体全体のエネルギー消費が減少します。
すると食欲と食事摂取量が減り、低栄養に至りその結果サルコペニアが進むといった悪いサイクルに陥ってしまうと説明しています。こ
れはサルコペニアをフレイルサイクルの中核病態として位置付けているといえます。

まとめると加齢によりロコモとなり、様々な疾患が加わることでフレイルへと進むが、そのフレイルを加速させる中核にサルコペニアが存在すると私は考えます。

ロコモを進ませないためにはロコトレをはじめとする運動とタンパク質とカルシウムの入った食事が大切と言われています。またフレイル予防にはもちろん運動とビタミンDとタンパク質の摂取が大切です。
運動療法に関する最近の論文では、肥満高齢者に運動指導する際、有酸素運動と筋力トレーニングを合わせて実施することで、有酸素運動または筋力トレーニングのみを実施する場合に比べ、半年後の身体機能はより大幅に向上することが示されました。
有酸素運動だけでは体重が減るだけでなく股関節骨密度も減ってしまい、筋力の増加割合も他群の1/4以下で、あまりいい結果ではありませんでした。
つまり、有酸素運動だけでは加齢に伴う筋量および骨量の低下を加速させ、結果としてサルコペニアやオステオペニアを生じさせる可能性があるので、筋力トレーニングの併用が望ましいと論じていました(Villareal DT. N Engl J Med.2017) 。

また、フレイル予防には絶対に避けなければいけない病気として糖尿病があります。
糖尿病はインスリンが働かず、糖新生の抑制が効いていない状態なので、常に体タンパクの異化か続いており、筋肉のタンパクが使われてやせ細ってゆきます。
フレイル予防におけるタンパク質摂取は食事から60~80g/日くらい必要で、運動とともにアミノ酸のBCAA一つであるロイシンを十分とることも大切です。これはロイシンが筋タンパク質を増やす働きが強いためです。
もちろんタンパク質の代謝を促すビタミンB群は必要ですが、ビタミンDも骨だけでなく筋肉にも働き、代謝を上げてタンパク質の合成を促進することもわかってきました。

これらの栄養素を十分とりながら有酸素運動と筋トレを行い、中核病態であるサルコペニアを予防することでフレイルに陥らないようにしましょう。

このようなことを40代から心掛けていればもちろんロコモにはなりません。

photo: Fraser Health News