がん幹細胞と温熱

私たちの体の中には細胞の元と言いましょうか、未だ何色にも染まっていない幹細胞(かんさいぼう)というものがあります。
幹細胞は自分自身を何度も複製したり、ほかの細胞に変化したりできます。
京都大学の山中先生が遺伝子操作で人工的に開発したiPS細胞や受精卵を応用したES細胞なども幹細胞の一種です。
これらは白血病の治療や再生医療に応用され、将来さまざまな形で役に立ってゆくものです。
ところが近年、がん細胞の中に幹細胞の性質をもったがん幹細胞の存在が示されるようになってきました。
最近ではがん細胞の一部にがん全体の成長を促している特殊な細胞(がん幹細胞)があり、これを取り除かないと悪化や再発は防げないとする研究成果がサイエンスやネイチャーなどの有名雑誌に掲載されました。

がん細胞は増殖力が旺盛で、細胞が不死の状態になり、周りに浸潤、遠くへ転移する特徴がありますが、転移や再発はがん幹細胞によるものと考えられています。
がん組織の中にはDNAを増やしている時期のものや分裂しているものや静かに止まっているものなど様々な段階の細胞が混在しています。
抗がん剤は増殖時期にあるものには効きますが、静かな時期のものには効かず、がん幹細胞を残してしまいます。そしてこの幹細胞が生き残り、目覚めて再発へと向かいます。

放射線治療においても再発の問題があり、低酸素がん細胞が注目されています。
がん腫瘍を立体的に考えてみると血管の近くにある細胞は酸素が大いにあるので活発ですが、血管から離れるにつれ酸素が少なくなり活動レベルが下がり、最も遠いところでは細胞は壊死に向かいます。
このような階層付けが血管を中心になされて、実際の腫瘍の中では活発な細胞と死んだ細胞が混在しています。

低酸素環境下において転写因子のHIF-1(低酸素誘導因子)は重要な機能を持ち、血管新生や転移、細胞浸潤に関係する多くの遺伝子発現を促し、低酸素がん細胞を特徴付けるものになっています。
そして血管を中心とした階層ごとに性質が少しずつ違った低酸素がん細胞が存在しており、酸素分圧に応じて分布することがわかりました。
そこで放射線治療を行うと、まず血管近くの酸素が豊富ながん細胞が死滅しますが、その領域の酸素消費が減ることで、すぐ隣の階層にあり死にかけていた低酸素がん細胞がHIF-1活性を獲得し、息を吹き返し自ら血管新生を誘導しつつ、血管に向けて移動します。
これが放射線治療後がん再発のメカニズムの一つです。
京都大学の原田浩先生によるとHIF-1阻害薬を放射線治療と併用すると治療後のがんの再発をぐっと減らせるようです。しかし、この阻害薬の使用はまだまだ先になります。

千葉県がんセンターの研究では低酸素下の肺がん細胞ではHIF-1を介して脱分化が促進され、より幹細胞様の性質を示す細胞に変化していることから放射線治療後の再発もがん幹細胞が関与している可能性があります。

転移や再発に関係するがん幹細胞は低酸素下にてHIF-1で元気になるので、何とかしてHIF-1を抑え込まなければなりません。

面白いことに温熱療法では、軽度高温(39~41℃)の低酸素の環境でHIF-1活性が著明に抑制されマクロファージで呼吸バーストが惹起されることが証明されています。
そこで、さらに研究を進めた奈良県立医大の大森先生によると弱い温熱刺激はがん幹細胞に対して抑制効果があり腫瘍縮小にも関係しているようです。

まだまだ研究が必要な領域ですが温熱療法は安全で副作用もないので私自身もとても良い方法であると思っています。

すぐにできる温熱療法としてお風呂がありますが、40℃であれば20分、41℃であれば15分、42℃であれば10分湯船につかることを週2回繰り返す入浴法がお薦めです。

またがん予防のためにも温浴は大切です。