漢方薬のがんとの関わり方

がんになったらすぐに手術で取る、抗癌剤や放射線でやっつければ何とかなるとがんに罹ったことのない多くの人は思っているでしょう。

しかし、一度がんに罹ったことのある人はまだ体の中に潜んでいるのではと日々考え、恐怖と戦っています。

実際に最近のがんの幹細胞や循環がん細胞の研究においてがん細胞が全くゼロになることはないようです。

またがんは生活習慣病の一部であるといった考え方もあり、その乱れから日々がん細胞が発生し、それを個々人の免疫で抑え込んでいますが、抑え込めなかった一個のがん細胞が十数年の歳月をかけて大きく成長し、一センチほどの大きさになったところで早期発見となるわけです。

こうしたことから潜んでいるがんへの対処や、生活習慣病の改善に漢方薬を利用される方が増えてきたように思われます。

漢方薬のがんへのアプローチとしては、がん細胞に影響を与える攻めと抗がん剤や放射線の副作用を抑える守りがあります。

攻めとしては①がん細胞を食べるマクロファージの機能を高めるなどの自己免疫の活性化②がんが増える際に張り巡らす新生血管の抑制③がんの増殖を促す炎症を抑える効能をもった漢方を用います。

漢方はもともと体全体のバランスをいかにして調節するかという考えに立って発達してきたものなので、西洋医学で研究されている薬には切れ味としては及びません。

しかし、最近のエビデンスを求めた漢方研究では、マメ科の植物の根から作る黄耆(オウギ)やシソ科の黄芩(オウゴン)などが脚光を浴びています。

2006年にカリフォルニア大学より報告されたメタ解析の報告によると進行した非小細胞性肺がんに白金製剤の抗がん剤と黄耆を含む漢方薬との併用で、抗がん剤単独よりも生存率が上昇、また奏効率やQOL改善率が30%以上アップ、そして骨髄障害などの副作用が下がる結果でした。

これは統計的に信頼できるメタ解析の結果なので、黄耆の効果にエビデンス(根拠)があると判断します。

2009年には黄耆は抗がん剤の薬物動態に影響を与えないとの報告も出て、黄耆の安全性も認められてきています。

黄耆を含んだ漢方エキス剤には十全大補湯や補中益気湯があり、特に十全大補湯は肝臓がん術後の再発を予防し、抗がん剤との併用では生存率や奏効率を上げることが報告されています。

続いて黄芩に含まれるフラボノイドには強い抗炎症作用があり、膵臓、肝臓がんや大腸がんでの抗がん剤でダメージをうけた粘膜上皮の再生を促進する作用があります。

この黄耆を入れた漢方薬を抗がん剤と併用した実験では腫瘍に対する相乗効果が高まることが2011年にNIHから報告され、エール大学からは腸粘膜の早期回復により胃腸毒性を抑えられることが報告されました。

黄芩を含む漢方には半夏瀉心湯があり、下痢や吐き気などの胃腸症状によく用いられます。

守りとしては、体力や免疫力を回復させることと抗がん剤や放射線の副作用を軽減させるために用います。

息切れがして貧血気味で体力がなく、免疫力低下の場合は補中益気湯や人参養栄湯、十全大補湯がよく、吐き気や食欲低下には六君子湯が好まれます。

精神的に落ち込んで不定愁訴が多い場合は加味逍遥散や半夏厚朴湯で、ホルモン治療などによる更年期症状には当帰芍薬散や桂枝茯苓丸をよく用います。

抗がん剤によるしびれもかなり辛い症状ですが、卵巣、子宮がんで使われるパクリタキセルのしびれには通常筋肉痛や関節痛に使われる芍薬甘草湯がよく、それ以外のしびれには牛車腎気丸が良く効きます。

また、子宮頸がんの放射線治療において補中益気湯や人参養栄湯、十全大補湯などの体力を高める漢方を併用することで10年生存率が高くなった結果が出ています。

よって漢方の攻めと守りを上手に使って参りたいと思います。

がん治療において、究極的には分子レベルですべて話ができるようになると思いますが、今現在、研究途上にあるので西洋医学単独では賄いきれない部分が多くあります。

その部分にうまく継ぎはぎしてくれるのが漢方であると私は思います。

疑ったり、否定したりせず、一つの武器として利用することで、少しでも楽になれれば治療効果もアップし治癒に向かうでしょう。