がん治療の守備固めに漢方を使おう

がん治療の中で大切なことはがんを縮小させる攻撃的な面と抗がん剤や放射線などによる副作用を軽減させる守備的な面の両立です。

抗がん剤により貧血、白血球減少、下痢、しびれ、味覚障害、口内炎、食欲低下などが起こります。

これらに対し様々なアプローチがなされますが、中でも大事なことは栄養や水分を口から入れる摂食をいかに維持するかです。

栄養や水分が不足すると元気がなくなって活動性が低下し、がん治療による弊害が前面に出てきて、がん治療そのものの継続ができなくなります。

そこで摂食を維持しこれらの副作用を軽減させるために漢方が用いられます。

漢方には保険のきく医療用医薬品(例えばツムラ、クラシエなど)のものとそれぞれの薬局の伝統的な特徴もって調合される自由診療的なものがあります。

医療用医薬品の漢方は多くの施設で使われているため論文も増えてその精度も高まってきています。

よく用いられる漢方の一つに六君子湯があります。これは逆流性食道炎の時にしばしば処方されますが、シスプラチンなどの抗がん剤による食欲低下や胃がん術後の慢性的な胃痛、胸やけを呈する機能性ディスペプシアに有効です。

六君子湯は胃からのグレリンというホルモンの分泌を促し、上部消化管の蠕動運動を良くして食欲を増進させます。よって代謝が改善され、がんの悪液質の改善の力となります。

また、疲労感や抑うつで食欲が低下している時に気を補う補中益気湯を用いることがあり、ある一定の効き目がありますが、この効果が不十分な場合には六君子湯が必要になります。

抗がん剤であるシスプラチンは食欲低下のほかに手足のしびれや口内炎を引き起こすことがあります。特に口内炎が続くと食欲は落ちてしまいます。口内炎には半夏瀉心湯が有効とされ、これは炎症部位でのプロスタグランジンE2(PGE2)という痛みに関する物質を抑制する働きがあります。アズノールうがい液でうがいをした後に服用すると効果的です。

便秘もおおいに食欲低下に関係します。大腸がん術後の腸閉塞の予防によく大建中湯が使われます。大建中湯は腸管運動促進や血流改善作用があり、便秘の改善に役に立ちます。

また、咳が続いて食欲が低下した場合、まず咳を抑えるために、麦門冬湯を選択します。これは肺がん術後や肺転移時の咳に対してたびたび使われる漢方です。麦門冬湯はカプサイシン、ブラディキニンやPGE2などの炎症物質の産生抑制、遊離抑制作用の他に気道を潤す作用があります。

しびれなどの末しょう神経障害も直接的ではありませんが、食欲に影響を及ぼします。手足の軽いしびれからボタンがかけられないなどの運動障害、味覚障害、自律神経障害、耳鳴りや聴力障害などがひどくなり日常生活ができないレベルに至ることがあります。しびれに関して血流改善や鎮痛作用のある牛車腎気丸が有効との報告があり、他にアルツハイマー病で使われる抑肝散も使われることがあります。そして牛車腎気丸だけで効果不十分な場合ブシ末の追加投与が役に立つ場合があります。ただし、重度の場合、漢方だけでは不十分なことが多々あります。

抗がん剤の副作用で元気がない場合に体力回復を願って十全大補湯がよく用いられます。十全大補湯は骨髄造血機能、免疫機能やQOLの改善に有効とされますが、食欲を低下させたり炎症を助長してしまう副作用があるので食欲不振がある場合は不向きです。

漢方には副作用がないように思われていますが、全く無いわけではありません。抗炎症作用のある黄ごんという生薬は肝障害を引きおこす可能性が10%という報告や間質性肺炎に至ったという報告もあります。上記の漢方の中では半夏瀉心湯があてはまるので注意をしながらの服用が大切です。

また甘草を含む漢方により直接ビリルビンが上昇や低カリウム血症を発症することが報告されています。甘草は上記の大建中湯や牛車腎気丸には含まれていませんが、それ以外のほとんどの漢方に使われていますので、時々血液検査をしたほうが良いでしょう。

医療用医薬品の漢方を上手に使い副作用の軽減しつつ、抗がん剤や放射線治療の継続ができればよいのですが、そうではない状況に置かれることが多々あります。

このような場合、独自の製法で効果を上げている漢方薬局の協力が必要になります。

福岡県にある創業110年の老舗薬局の榎屋相談堂さんではさまざまな病気の相談を全国から受けており、がんだけでも200件以上あるそうです。

この薬局は栄養補給と強い免疫力の獲得によってがんと共存する長期戦略を目指しており、胸水や腹水の溜まった方や余命があと少しと言われた方々に対応しています。

その処方には独特のものがあり、海の栄養素である牡蠣、大地の栄養素として紅参、エノキタケとブナシメジを中心に他の生薬をブレンドし処方しています。

この薬局の代表者である中尾薬剤師はこれらの処方により奏功や安定が50~60%得られると述べています。

当院は数年前から重度の患者さんに対し相談堂さんと連絡を取り合いながら処方をしており、実際、状態が良くなった方もおられ、現在クリニックと薬局が密に話し合える良い関係にあります。

がん治療において医療用医薬品の漢方であれまた老舗薬局の漢方であれ、漢方を使いこなすことで、守備的な面を確固たるものにすることができます。

また体力や免疫力の回復により、元気な日常生活を再び取り戻すことができるかもしれません。

標準治療にプラスαとして漢方を取り入れることはとても大切であると思います。

photo: spainfitness.com