脳腸相関は第2の脳といわれる腸の腸内細菌との連携プレーである

ストレスで胃やおなかが痛くなる、ストレスで便秘、下痢になるなど、誰もが経験します。

最近、消化管に器質的疾患がないのに、症状が慢性化する機能性消化管疾患が増えています。

それには機能性ディスペプシア、非びらん性胃食道逆流症、過敏性腸症候群、慢性便秘などがあります。

器質的に異常がないため病院を受診しても対症的に胃腸薬などが処方され、根治することなくQOLが低下したまま我慢をされている方も多いようです。

こういった状態は腸と脳との間のシグナル伝達の異常ととらえる考え方があり、脳腸相関の問題といわれています。

脳腸相関は脳から腸へのシグナルと腸から脳へのシグナルがあります。

またそれぞれ神経による伝達経路とホルモンなどの物質が血管内を移動する循環系の経路があります。

腸から脳への神経の経路は消化管内腔の粘膜細胞の刺激を迷走神経が感知し、延髄孤束核に伝える系と消化管壁内にある内在性知覚ニューロンから脊髄に入り視床―大脳皮質へと行く系があります。

過敏性腸症候群は脳から腸、腸から脳のどちらのシグナルの異常でも発症しますが、特に下痢型の場合、内在知覚ニューロンのセロトニンの5-HT3受容体に原因がありここをブロックすることで抑えることができます。

慢性便秘の多くは腸管の拡張を伴わない機能性便秘で、脳腸相関の不具合が関係しています。

最近、便秘症と神経変性疾患の関係において、便秘の人は便秘のない人に比べてパーキンソン病に6.5倍、多発性硬化症に5.5倍罹患しやすいことが分かりました。メタボの1.4倍、心血管疾患の1.5倍に比べてかなり高い値を示しているので、慢性便秘の治療はとても大切です。

京都府立医大の内藤裕二先生は ①全粒穀物、果物、野菜など繊維の多い食品の摂取、②速足で歩く、自転車に乗るなど中等度の運動、週に最低2時間半③水分を1日1000ml 以上摂る④食後の排便時間の確保⑤便意を我慢しないなどが慢性便秘解消の基本と述べています。

脳から腸への経路は副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)が視床下部-下垂体-副腎を活性化し副腎からのコルチゾールの分泌によりストレスに応答する系が知られています。

もう一つはCRFが室傍核や延髄の孤束核など中枢神経のCRF2受容体に作用し神経を通じて上部消化管の運動を抑制したり、CRF1受容体を介して下部消化管の運動を亢進させる系があることが分かってきました。

またCRF以外に外側視床下部の神経細胞で作られているオレキシンという神経ペプチドがあります。

これは迷走神経依存的に胃酸分泌、胃や大腸の運動を亢進させるといわれており、最近の研究では脳内のオレキシンのシグナルが低下することが消化管機能障害、睡眠障害、食欲不振、抑うつ状態などに関与していることもわかってきました。腸が第2の脳といわれる所以がこのあたりにあります。

ストレスを受けた腸管では、平滑筋刺激による腸管運動亢進だけでなく、腸内フローラにも変化が生じます。ストレスが消化管内のカテコラミンの分泌を増やし、このカテコラミン受容体を持つ大腸菌が増えることで腸内フローラの乱れが生じ、病原性が増強するといわれています。

また宇宙飛行士のフローラを調べた実験では細菌数が飛行前から変化し始め、飛行中に異常が進み、善玉菌のラクトバチルスやビフィドバクテリウムが減少し、悪玉菌であるエンテロバクテリアやクロストリジウムが増加していたとの報告があります。

このようにストレスは腸内フローラに対して大きな変化をもたらし、体に影響を与えます。

腸内フローラの中の体にとって良い菌である有用菌は、腸内の食物繊維から短鎖脂肪酸を作ります。

短鎖脂肪酸には酪酸、酢酸、プロピオン酸があり、酪酸には抗うつ作用や認知機能改善作用があるようです。

酢酸は腸から吸収されたのち肝臓から脳の視床下部まで到達しプロピオメラノコルチン神経細胞に働き食欲を抑制する方向に作用します。

プロピオン酸は肥満の人への投与実験で食欲の減少の他に体の脂肪量の減少とインスリン感受性を維持する働きをします。

まず腸から吸収されたプロピオン酸は門脈に入り門脈神経叢にある短鎖脂肪酸受容体(FFAR3)に結合し、腸と脳の間の神経回路を活性化させます。

活性化した脳細胞は遠心性神経回路を通じて腸間粘膜細胞にブドウ糖をつくるように働き腸内糖新生を促します。腸内でブドウ糖が作られることにより肝臓でのブドウ糖産生が減り血糖値は安定化へと向かいます。そしてインスリンの値が安定する結果、食欲も落ち着いてきます。

これは水溶性食物繊維の分解から始まり、腸から脳さらに腸へとめぐる回路が形成されて、さらにエネルギー代謝の調節に至るといった腸内細菌と生体の巧みな連係プレーです。

腸内細菌とメンタルの関係では、まず発達障害に関して、フィンランドのParttyらは乳幼児期にプロバイオティクスを与えられた群はプラセボ群よりアスペルガー症候群やADHD(注意欠陥多動性障害)の発症が有意に少なかったことを報告しています。

抑うつや不安に関して、フランスのMessaoudiらはプロバイオティクスのランダム比較試験においてプロバイオ摂取群が抑うつ気分だけでなく自覚的ストレス度の有意な改善が見られたことを報告し、TillischらはfMRIを用いプロバイオ摂取群が、不安惹起刺激による不安関連脳領域の活動性の減弱(不安にならなくなった)を認めたことを報告しています。

このように腸内細菌による脳の変化を客観的にとらえたことはとても重要で、腸内細菌とメンタルが大いに関係していることを示しています。

以上より、脳腸相関の安定化にはやはり良い腸内フローラの存在が大切です。

そのためにはヨーグルや漬物などで腸内細菌を供給し続けること、食物繊維やポリフェノール類をとり腸内細菌を増やすこと、そして腸内フローラを有用菌に変える納豆やみそなどの発酵菌を十分にとることが必要です。

また、運動を取り入れてストレスの少ない生活への改善、良質のタンパクやビタミンBや鉄などを多く含む食生活で脳に栄養を十分届ける工夫が求められます。

腸を良くしてあげれば頭が良くなり、頭を良くしてあげれば腸も良くなります。

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