東洋医学から学ぶ秋の養生法

この連休、久しぶりにスーパーに出向くと、もう店先はぶどうや栗、松茸など多くの秋の味覚で彩られていました。

一方、在宅の患者さん宅からは、熱がある、おなかが痛い、反応がおかしいなど連絡がありその対応に追われました。

ここ数日、雨で日中の気温が17℃位の日もあれば、翌日晴れて25℃以上になったり、天候と気温の変化が激しかったせいもあるのでしょう。

在宅診療を毎日行っていると、時々ほとんどの患者さんの血圧が上がっている日や下がっている日に出くわします。これらも天候や気温の変化が大きい時に見られるという印象です。

人の体と気候との関係は大いにあると皆が分かっていても、医学的な研究や証明が多くなく、なかなか予防までは至らないようです。

しかし、東洋医学では体全体を気候や食との関係で診るので、何かヒントがあるかもしれません。

東邦大学東洋医学研究室の田中耕一郎先生は東洋医学の気象学の分野からこのあたりを上手に説明してくれています。

日本の上空にはシベリア気団、オホーツク気団、揚子江気団、小笠原気団の4つの高気圧が季節ごとに押し合いへし合いをしながらやってきます。夏に力を有していた小笠原気団は秋に近づくと南方からの熱量の供給が弱まり影響力が低下してきます。

すると北から冷涼で乾燥したオホーツク気団がやってきて、小笠原気団とせめぎあい、やがて追いやる形となります。この時期を処暑といい、夏の熱、湿が終わりを告げます。

中国のことわざ「一場秋雨一場涼」(秋雨ごとに寒くなるという意味)があるようにこの時期の気候の特徴は、日中は暖かく、日が暮れると涼しくなるように昼夜の気温差が激しく、湿度が低くなることです。

 

この時期に身体の中で最も影響を受けやすいのは肺で、東洋医学における肺は呼吸の肺の他に鼻と皮膚を合わせたものを示します。

病邪(感冒の原因)は体表から肺に向かい徐々に内部に侵入してくるので、それを阻止するためには体表部を鍛えなければならないという考えが基本にあり、乾布摩擦などはその一例といわれています。

 

漢方薬で対応する場合、麻黄湯、葛根湯、桂枝湯が主に処方されます。これらの薬は体表部の血流や筋緊張の調整を通じて、感冒症状の改善のために用いられてきましたが、最近の研究では抗ウイルス効果もあることが分かってきました。また麦門冬湯は肺を潤し、当帰飲子は皮膚の掻痒や乾燥防止に役立ちます。

 

東洋医学において肺は最も弱い臓とされ、大気の寒暖や乾燥に容易に影響を受けるほか、精神的な影響も受けやすいと考えられています。肺は悲しみ、憂いの感情を担当していると考えられ、空虚感を背景として生まれてくる“ため息”などはその一つといわれています。

つまり、肺が弱いと悲しみや憂いの感情が強く出てくるので注意が必要となります。

この時期は夏の疲れがもとで倦怠感が出て気虚という状態になり、気分の落ち込みやうつ症状を呈しやすいため、夏よりペースを落としつつ生活を送ることが大切です。

 

睡眠においては、夏より少し遅めの起床にして、昼に仮眠をとることで、夏の暑気により消耗した“気”をこの時期に回復させることができます。“気”は古代中国では生命の根源や自然の摂理と考えられ、現代でも気にはエネルギーが宿りさまざまな現象を引き起こすものと言われており生きる上でとても大切なものです。

 

秋の食材は“小辛多酸”といって、辛いものは少なめに、酸っぱいものを多めに取るという考え方があります。

辛いものは身体に熱をもたらし、発汗作用があります。秋の気温低下にはある程度必要ですが、乾燥症状を悪化させるので少量に留める方が良いとされます。

酸味は粘膜からの分泌作用を促し、体を潤す作用があります。そのために秋の乾燥に対して酸味は重要な味となります。ただ、多くの酸味は体を冷やす作用もあるために、辛いものを少量合わせてバランスをとる必要があります。

これらは味覚から身体を調整するという東洋医学の考え方です。

 

代表的な食材の一つに梨があります。梨の果汁には潤肺作用がある一方、寒性の食材で体から熱を奪う作用があるため食べ過ぎは禁物です。

それを補うために温性で潤肺作用のある蜂蜜と合わせて、梨を加熱することで潤肺作用は高まり、梨の寒性は相殺されます。

また柿にも潤肺作用がありますが、これも寒性の食材のため、寒性が減弱される干し柿の形で取ると良いようです。

他に百合根や白きくらげも潤肺作用のある食材とされており、これらも温めて用いると効能がより引き出されます。

 

この時期は東洋医学的な“気”をいかに落とさず過ごすかが大切です。

 

そのためには華奢な肺を弱らせないように、睡眠や食材の工夫をし、適当な漢方を用いてみてはいかがでしょうか。

 

秋の夜長を気分良くゆったりと過ごしたいものです。

 

 

photo: Ozarks Living Magazin