リピドミクスで慢性炎症を抑えてがん予防

スポーツと酸化ストレス・抗酸化の会でリピドミクスFAテストをやってみました。

この聞きなれないリピドミクスとは体内脂質の網羅的検査および研究のことで、

人の遺伝子の研究であればゲノミクス、タンパク質はプロテオミクス、代謝関連はメタボロミクスと呼びOmics科学の一つとされています。

この検査方法はとても簡単で、指先から数滴の血液を特殊な試験紙にしみこませて終了です。それを検査機関に送り、分析されたのち3~4週後に結果レポートが届きます。

このテストでは①飽和脂肪酸/一価不飽和脂肪酸比②トランス脂肪酸指数 ③オメガ3指数 ④アラキドン酸/エイコサペンタ塩酸比を調べます。

普段から和食と好物のオリーブを使った地中海食を心掛けている私としては体内脂質のバランスにはある程度の自信がありましたが、結果は満足のいくものではなかったのです。

①②④は理想値またはそれに近い値でしたが、③のオメガ3指数が低く理想値からかけ離れていました。

オメガ3指数は赤血球中のオメガ3脂肪酸EPA+DHA量の尺度であり、循環器の健康状態の目安となります。このオメガ3脂肪酸は細胞をより長期にわたって若く保ち、逆に低いと致命的な心臓発作、うつ病や認知症のリスク増大と関係しているといわれています。

以前オメガ3を多く含むアマニ油、えごま油、魚油をとってみたものの、どうも味が私には合わず長続きはしませんでした。青魚も意識して食べていますがまだまだ足りないようです。

今回分かったことは、野菜、タンパク質の十分な摂取、ゆるやかな糖質制限と腸内環境の整備を行ったとしてもオメガ3は意識して摂らないと体に反映されないということです。

まさに体内で他の脂肪酸から合成できない必須脂肪酸の一つであると改めて思いました。

 

そこで魚食を増やすことはもちろんですが、限界があるため、早速EPAとDHAのサプリを取り入れました。サプリは当院で栄養療法に用いているMSS社のuDHAとオーソオイルの2種の併用です。数か月後にもう一度このリピドミクスFAテストを行ってみようと思います。

ではなぜこれほど脂肪酸にこだわるのでしょうか?

それはエイコサノイドを作るためです。

エイコサノイドはオメガ3やオメガ6から細胞膜で作られる代謝産物で、体の中で起きる炎症や抗炎症に関わっています。

ウイルスや菌などの異物に攻撃された場合、エイコサノイドが急性炎症という方法でそれらを排除します。つまり局所においてホルモン的な働きをします。

そして、脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病、アルツハイマー病、アトピー性皮膚炎、がんなどの慢性炎症がベースにある疾患もエイコサノイドが大いに関わっています。

またうつや慢性疲労症候群などの心の病気とされるものに対しても関わりが分かってきました。

エイコサノイドにはプロスタグランジン、プロスタサイクリン、トロンボキサン、ロイコトリエンがあります。

ちなみに腰部脊柱管狭窄症や閉塞性動脈硬化症で処方されるオパルモンやプロサイリンなどは血管拡張作用や抗血小板作用がありますが、いずれもエイコサノイド受容体に働く薬です。

オメガ3や6からエイコサノイドができるまでの反応系は多少複雑なので、簡単に人に例えて言います。

プロスタグランジン組にはD1,D2,D3,E2,E3,F1,F2,F3などそれぞれ個性のあるメンバーがいるように他の3つの組にもそれぞれメンバーがいます。

しかし、そのメンバーの出身地がオメガ3やオメガ6であったりしてバラバラです。

特にオメガ6のアラキドン酸出身のメンバーたちは幅を利かせて炎症亢進の方へと導きます。それをオメガ3出身者やオメガ6のジホモγリノレン酸出身のメンバーたちが炎症を抑制しようとがんばります。

最近オメガ6を悪者扱いする風潮がありますが、抗炎症に働いているオメガ6もあることを分かっていただきたいと思います。

ただ残念なことにジホモγリノレン酸はある酵素によりアラキドン酸に変えられてしまうのです。

よって一番の問題点はオメガ6を摂りすぎてアラキドン酸を増やしてしまい炎症が延々と続くことです。

アラキドン酸を増やさないためには3つの大事な点があります。

まず1つ目はアラキドン酸のおおもとであるリノール酸を減らすこと。つまりサラダ油(コーン、ひまわり、べにばな油)を使った食材を減らすことです。

2つ目はジホモγリノレン酸を変化させる酵素を抑え込むことです。この酵素はインスリンにより活性化するので、パンやお菓子など食後高血糖を導く食品に注意し糖尿病にならないように気を付けましょう。

3つ目はEPAを沢山とりアラキドン酸/エイコサペンタ塩酸比(AA/EPA比)の改善です。

 

このたびの私のリピドミクスFAテストではAA/EPA比は理想値近辺でアラキドン酸の抑制はできていました。

しかし、EPAが少なかったため理想値に入ることができませんでした。

そこでもっとEPAをとろうと思ったわけです。

普段からがん予防のために抗酸化、抗糖化、抗炎症を心掛けてきましたが、EPAが全く抜け落ちており、はじめ結果を見たとき正直がっかりしました。

しかし、今回のリピドミクスFAテストで自身の欠点が分かり、早めに軌道修正ができて良かったと思います。

このテストを開発したイタリアの抗酸化研究の第一人者であるIorio先生はオメガ3の減少が酸化ストレスの増大をもたらすとの考え方からこのテストをアスリートの炎症コントロールの指標にしており、イタリアのプロサッカーチームのユベントスでも用いているようです。

私はこの検査が自身の栄養における方向性を変えてくれた大事な検査と考えており、当院でも慢性炎症を測定する高感度CRP検査と共にリピドミクスFAテスト取り入れて慢性炎症疾患やがん予防に取り組んでゆこうと思います。

photo: karolinska Institutet  KI News