メタボの予防は腸内細菌が握っている

忘年会やクリスマス会で栄養たっぷりになった自分に言い聞かせるわけではないが、今メタボが増えています。

メタボリックシンドロームの該当者と予備軍の人数は国や自治体がさまざまな対策を講じているにも関わらず、2015年の目標だった1050万人に至ることなく現在は1412万人に増加しています。

BMI25以上の肥満の割合についても男性では31.2%から32.4%と増加しています。

メタボリックシンドロームは肥満(内臓脂肪型)、高血圧、高脂血症、高血糖を同時に持っている状態で、この状態が続くと動脈硬化が進み心疾患や脳血管疾患に陥ります。

生活習慣病なので食事や運動に気を付けることは分かっているのに、なかなか改善しません。

その要因の一つに腸との関係があるといわれています。近年遺伝子や、代謝産物の解析技術が進み内臓脂肪蓄積から引き起こされるメタボリックシンドロームにおいて、我々の腸内に住む1000種類の腸内細菌の内いくつかが重要な役割を担っていることが分かってきました。

10年ほど前に肥満者と標準体重の人の腸内細菌叢の構成に差があり、肥満者ではバクテロイデス門の菌が少なくファーミキューテス門の菌が多くなるとの報告がなされ、やせ菌、デブ菌と名付けられたこともありました。

しかし、この分け方が大まかすぎて最近では個人差、民族差、食生活の違いから必ずしもそうではないことが分かってきました。(細菌の分類は大きなドメインから→門→綱→目→科→属→種へと細かく分かれていきます)

腸内細菌叢を機能的観点から研究している慶応大学の菊池、入江先生によるとメタボリックシンドロームや2型糖尿病患者の腸内細菌ではLactobacillus属の菌が多い一方、短鎖脂肪酸産生菌であるRoseburia属やFaecabacterium prausnitziiが少ないこと、腸管バリア機能に重要なムチン層の維持に寄与するAkkermansia muciniphiliaが少ないことが分かってきました。

短鎖脂肪酸は難消化性多糖(ごぼう、こんにゃくなど消化酵素で分解されにくい食物繊維)が腸内細菌によって分解されることにより腸管内で産生されるもので酢酸、酪酸、プロピオン酸などがあります。

これらは腸管上皮細胞にあるGRP41や43などの受容体にくっつき腸管内分泌細胞L細胞からGLP1というホルモンの放出を促します。続いてGLP1は膵臓のβ細胞に表面の受容体にくっついてインスリンを分泌させます。また短鎖脂肪酸は白色脂肪細胞において脂肪の蓄積を抑制したりメタボリックシンドロームにならないような働きをします。

メタボリックシンドロームでは慢性炎症が存在していることがあります。慢性炎症は心臓病、アルツハイマー型認知症、がんなどの重篤な疾患の元凶なので注意が必要です。

心臓の冠動脈などの血管内では中性脂肪の増加から小型化LDLがマクロファージに取り込まれ炎症性サイトカイン放出による慢性炎症が起こります。

これとは別にLPS(菌の細胞膜構成成分のリポ多糖)が高脂肪食摂取後に増加することがありますが、LPSはエンドトキシンなので体内に入ると炎症を引き起こします。通常は体内に入らないのですが、動物実験などから腸内細菌の偏りができ、腸管バリア機能に重要な細胞と細胞のすき間を埋めるtight junctionタンパクやムチン層の減少が起こり、LPSが腸管から容易に体内に入りやすい状態になったためと考えられています。

よって乳酸菌が入ったヨーグルトや漬物などのプレバイオティクスも大事ですが、短鎖脂肪酸を作ったり、ムチン層で腸管バリアを高める機能が明らかになった腸内細菌がメタボリックシンドロームの予防や治療にはとても重要になります。

他に治療としては便微生物移植(FMT)が腸内細菌の多様性とインスリン感受性の改善に有用であったり、肥満者に行われる腸のBariatic手術が腸内細菌の組成をいい方に変え、特にムチン層の改善に関わるAkkermansia muciniphiliaを増やすことが分かってきました。

メトホルミンという薬は腸管ムチン層の増加やエンドトキシンの濃度の低下、インスリン感受性の改善に寄与します。陰イオン交換樹脂は腸管内の胆汁酸を吸着し血中コレステロールを低下させる他に腸内細菌叢の偏りを変えメタボリックシンドロームの治療に寄与します。

また、食事においては1日9時間以上の空腹の時間を持つことで腸内細菌の多様性が回復し、メタボリックシンドロームの発症の抑制に関わることが分かってきています。

食事の工夫と腸内細菌の機能を引き出して組成を考えることがメタボリックシンドロームの予防や治療に大切であると思います。

最近では小児のメタボも問題になっていますが、腸内フローラの形成は3歳までに行われるという意見もあり、5歳未満の肥満率が高いのは先進国に顕著で、より早期からの食事やプロバイオティクスをとるようにした方がいいと思います。

よって、若い時期から腸内細菌とうまく付き合うことでメタボとは無縁の体になるかもしれません。

photo: JeopardyLabs