MCIを知り認知症予防をはじめよう

日々の往診で感じるのは認知症の患者さんを介護しているご家族がとても大変であるという事です。患者さん自身は言った事をすぐに忘れてしまう、何度も同じ話が続く、家族は食事や排せつで手を焼くなど介護負担は枚挙にいとまがありません。

2012年の認知症患者さんは460万人で、超高齢化社会の到来とともに2025年には700万人になると予想され、何らかの手を打たない限り増加の一途をたどります。

認知症には6割近くを占めるアルツハイマー型認知症と脳梗塞などが原因となる血管性認知症、そしてレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症があります。

認知症は平たく言うと脳神経細胞にゴミのような物質がたまり、細胞が機能不全になり脱落してゆく疾患です。

アルツハイマー型の場合、脳神経の細胞内にタウ蛋白、細胞外にアミロイドβが蓄積します。レビー小体型では細胞内にレビー小体という蛋白の集合体が蓄積することで細胞障害を引き起こします。

私たちは現場において患者さんに認知症テストを行い認知症と診断した後、漢方薬や皮膚に貼る薬やアリセプト(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)やメマリー(NMDA受容体拮抗薬)などの飲み薬を処方しますが、著しい改善には至らず、なかなかうまく行かないのが現状です。というのも、いずれの薬も症状改善薬であり、神経変性の結果生じる神経伝達物質の枯渇を間接的に補充するだけなので根本的な治療ではないからです。

認知症発症時にはもうすでにアミロイドβが脳にたまりきっていることが分かっているので、アミロイドβの沈着や神経変性を遅延させるような根本的治療薬が、一刻も早く必要とされます。

そうした中、最も大事なことは認知症にならないように予防することです。

認知症になる一歩手前の疾患概念として軽度認知障害; MCI(Mild Congenitive Impairment)というものがあります。これは本人または周囲からの認知機能低下の訴えがあり、認知機能は正常でないわりに、認知症の診断基準は満たさず、少しのADL(日常生活動作)障害はあるものの基本的にADLは正常であると示されています。

MCIの特徴としては、同年代の他の人に比べて、物忘れの程度が強い、物忘れが多いという自覚がある、日常生活にそれほど大きな支障はきたしていない、物忘れが無くても時間や場所の把握、注意力、理解力、判断力、会話など認知機能の障害が一つでもあることなどです。

MCIの患者さんは2012年には400万人でしたが、2025年には同じ割合を当てはめると600万人近くになると予想されます。

一般的にMCIと判断するためにMoCA-JやCDRという質問に答える形式のテストがあり,比較的有用とされています。

MCIは記憶障害と言語、遂行機能、視空間認知の有無で4つに分けられ、将来どのタイプの認知症に進むのか予想することもできます。特に、記憶障害があるamnestic MCIと分類された場合は高率にアルツハイマー型認知症に進行するようです。

しかし、MCIになったらといって、すべて何らかの認知症になるのかというものではなく、正常に戻る確率は14~44%程あるともいわれています。

客観的な検査では、従来、針を背中に刺して脳脊髄液を取り、その中のアミロイドβ、タウ蛋白を測定する方法がありましたが、最近では血液中のapoA1,C3,TTRという3つのタンパク質の測定をしてMCIのリスク判定ができるようになりました。

このリスク判定は感度87%、特異度82%と高く、結果は健常から高リスクまで4段階で出てきます。またApoE遺伝子型検査を加えることで認知症の発症リスクをさらに知ることができます。

このMCI検査により自身のリスクを出来るだけ早期に知って、確実な予防へとつなげることが大切です。

認知症に関して若年期は15歳までに教育をして、中年期は高血圧、肥満、難聴に注意し、高齢期は喫煙、うつ病、低身体活動、社会的孤立、糖尿病に注意するなどで、認知症症例の1/3以上は生活習慣要因への対処により予防可能と報告されています(Lancet,2017)。

基本的には生活習慣病の予防ですが、特に糖尿病が危険と多くの論文で言われているので気を付けましょう。

予防法は他の疾患と同様に運動と栄養がkeyになるのは言うまでもありません。

最近のメタ解析で認知症の改善に運動は関係ないと報告がありましたが、予防という面に関して運動は有効です。運動によりネプリライシンという物質や筋肉から成長ホルモンの分泌によりBDNF(脳由来神経栄養因子)が増えてアミロイドβに対し抑制的に働くことがいわれています。65歳以上の高齢者を週3回15分以上ウォーキングなどの有酸素運動をした群としない群で6年調査したところ、有酸素運動により認知症になるリスクが大幅に低下した結果が得られました(Ann Intern Med 2006)。

また、金沢医科大学の認知症センターの入谷先生は運動と共に大事なのは何事にも興味を持って行動できる知的好奇心であると述べています。

認知症の予防効果の高い食品はビタミン、ミネラル、オメガ3,9系脂肪酸、ポリフェノール、レシチンを多く含むものです。また、お茶やコーヒー、オリーブオイル、ごまなど抗酸化作用のある物やターメリック、アーモンド、シナモン、ローズマリーなどアミロイドβとタウ蛋白の蓄積を阻害すると言われている物も推奨されます。

逆に控えるべき食品はトランス脂肪酸、オメガ6系脂肪酸、白砂糖を多く含む物、そして塩分です。

よって栄養面においてはこれらの取捨選択を日々地道に行うことが大切です。

 

最近よく耳にするフレイルという言葉は運動機能の低下と認知機能の障害で要介護状態に向かうことをいい、認知症を予防することがフレイルの予防にもつながってゆきます。

在宅医であり整形外科医でもある私は運動器の専門家として、フレイルという観点から今後は認知症予防への対応を進めていく必要性を感じております。

photo: NewScientist