ケトン食による がん 兵糧攻め作戦

かつて戦国武将たちは、さまざまな戦術を展開し、勝利した者だけが生き残れる過酷な世界にいました。豊臣の時代、黒田官兵衛らは鳥取城を陥落する際に兵糧攻めという方法を選択しました。本格的な攻めの前に城下にあったお米を倍の値段で買いあさりその地域の米の量を減らしました。その後、領民たちを焼き討ちなどで追い立て城の中に追いやったあと城を囲み外部からの食糧補給を絶ちました。城の中は4千もの人であふれかえり食料があっという間になくなり武力衝突することなく陥落したそうです。手間はかかるものの味方の損失はなく、まさに戦わずして勝つ優れた方法であったと思います。

銀座東京クリニックの福田一典先生はこの兵糧攻めという考えをがんの治療に応用しました。最近よく耳にする糖質制限に、脂肪を沢山とるケトン食療法を加えたのです。がん細胞の主な栄養源はブドウ糖であるので、これを断つことでがん細胞を兵糧攻めにして、正常細胞は脂肪から栄養を補給するというものです。
糖質の過剰摂取は体の細胞を糖化することで老化の進行や糖尿病、がんなどの多くの病気を引き起こします。糖質の摂取をなるべく少なめにすることはとても大切ですし、病気にならないための基本です。がん予防には糖質の制限とタンパク質と緑黄色野菜の摂取と適度な運動が好ましく、がんになってしまった場合にはケトン食を追加するという考え方です。
ケトン体とは、脂肪の分解途中でできる、アセト酢酸・βーヒドロキシ酪酸・アセトンを総称したものです。糖質不足や代謝の障害がおこると、体は糖質に代わるエネルギー源を脂質に求めるようになり、脂質の代謝が盛んになります。
体内の脂肪細胞に蓄えられた脂質(脂肪酸)は、肝臓に運ばれて、アセト酢酸に変わり、さらにこのアセト酢酸が変換されて、βーヒドロキシ酪酸・アセトンなどのケトン体ができて肝臓以外の各臓器でエネルギー源として利用されます。このように、血液中に増えたケトン体がエネルギーとして使われている状態を「ケトーシス」と呼びます。
ケトーシスの体を作るには、まず1日の炭水化物の量を、1日の摂取カロリーの5%に抑えます。例えば、1日に2000kcal摂取している人なら炭水化物の摂取量は100kcal(25g)以内にします。この状態を数日週続けると、体脂肪がエネルギー源として利用される「ケトーシス」となります。

がん細胞は無限に増殖する使命を帯びた細胞で、そのために酸素を必要としない嫌気性解糖系を選択し、ブドウ糖を原料に(ATP)エネルギーを作り、そのエネルギーをもとに自己の細胞構成成分を合成してゆきます。
ミトコンドリアを利用した方がATP産生量は多いのですが、大量の活性酸素が発生するので、酸素を必要とするこちらの系をがん細胞は選択しませんでした。
よってがん細胞の周りにいくら酸素があっても好気性呼吸を行いません。これはがん細胞内で低酸素誘導因子(HIF-1)が常に活性化し解糖系方向の促進とTCA回路方向の抑制が働いているためといわれています。
つまりがん細胞はブドウ糖の取り込みを常に亢進させていないと生きて行けない細胞であるともいえます。
一方、がん細胞はケトン体をエネルギー源として利用することはできないばかりか、ケトン体自体にがん細胞の増殖を抑える作用があり、脂肪の摂取は有用と考えられます。
どの程度まで脂肪をとることが可能か調べた実験で、健常人にカロリーの85%以上を脂肪で摂取するような食事を続けても内臓や運動機能に悪影響がないことが認められました。このことからかなりの量の脂肪を糖質の代わりにとることができます。

ケトン食療法は元々てんかんの食事療法としてかつて用いられた方法ですが、薬の進歩により使われなくなりました。しかし、てんかんに関連して脳腫瘍にケトン食療法を行ったところ抗腫瘍の効果が見られたことや、抗腫瘍効果が血中ケトン体濃度と相関した実験結果も示されたことから最近、がんの食事療法として見直され研究されるようになりました。

実際のケトン食療法は

① 脂肪として肝臓で代謝されやすい中鎖脂肪酸を使います。 オリーブオイル、魚油(DHA,EPA)、亜麻仁油、しそ油などです。具体的にはココナッツオイルや精製中鎖脂肪酸(マクトンオイルやMCTオイル)を1日に40~100g摂るようにします。(1日の食事の60%を脂肪にする)

②1日40g以下の糖質制限(ごはん一杯150gには50gの糖質があるので、1日1杯も食べられません。)

③タンパク質は体重1kgあたり1~2g摂ります。
基本的に脂肪:(糖質+タンパク質) を 3:2にします。
例えば糖質40g(160kcal)タンパク質80g(320kcal)の場合脂肪は180g(1620kcal)で合計2100kcal/日になります。

ケトン食の欠点は極端な糖質制限を行うので重度の糖尿病の方に行うことは危険で、また高脂肪、高タンパクになるので重度の肝障害や腎障害がある場合も難しくなります。主にⅠ型糖尿病でインスリン不足により脂肪の代謝が亢進し、血中にケトン体が蓄積し酸性血症により意識障害に陥る糖尿病性ケトアシドーシスがあり、ケトン体に良くない印象を持たれる方もあるでしょう。

しかし、実際はインスリンの働きが正常である限り、一時的に上昇したケトン体によるアシドーシスは血液の緩衝作用で正常に戻るため、ケトン体は安全なエネルギー源であるといえます。また高脂肪ががんの発生を高めるとの意見もありますが、これは高脂肪と高糖質が合わさった食事での話であり、低糖質では逆に発がんを抑制する実験結果も出ており、心配することはないでしょう。

断食やカロリー制限と違って栄養不足や体力低下に陥ることも少なく、副作用のほとんどないこのケトン食療法は、がん細胞の弱点をついたとても理にかなった方法です。がん攻略には標準療法の正攻法ももちろんですが、過去の武将にならい、がんの兵糧攻めも一考の余地があると思います。

photo: www12.plala.or.jp

すすむ個別化医療がそのうちがんの標準治療になるかもしれない

個別化医療やプレシジョンメディシン(精密医療)ということばが、特にがん治療においてよく聞かれるようになってきました。
今や2人に1人が罹患するがんに対して、医療者側は遺伝子解析など細かい検査により個々人に合う薬や治療法を提供する時代に入ったことを意味しています。
また、今の手術、化学療法や放射線治療など標準治療ではどうしてもカバーしきれない部分があり、それを新たな手法で補っていく必要があります。
その一つとして今や広く普及した分子標的薬があります。
分子標的薬はがん細胞に特徴的に発現しているタンパク質の分子を標的として、この働きをブロックすることでがんの増殖を抑える薬です。
がん細胞は自分で死ぬこと(アポトーシス)することなく、自ら栄養補給のための血管を作り、増殖し続け、その血管内に侵入し血流に乗って、遠くの臓器へ転移する特徴があります。これらはすべて異常な遺伝子から作られた異常なタンパク質による仕業です。
そして、この異常なタンパク質を攻撃するためにモノクローナル抗体や低分子薬などの分子標的薬が作られ、様々な種類のがんに用いられています。
分子標的薬は通常の抗がん剤に比べて髪の毛が抜けることや食事が全く摂れないなどのADLを著しく低下させるような副作用が少なく、治療成績も向上し進歩した感はあります。
しかし、全く効かないケースや、重篤な副作用が出現することもあり、またそのうち耐性も出てきてがんを制圧するまでには至りません。これは現時点でがんの特徴を厳密に調べ上げることが出来ていないためだと思います。
同じ臓器のがんでもそれぞれ遺伝子の異常部位や数が異なるため個々人でがんの性質が違います。どの遺伝子が本当に悪さをしているのかを見つける技術と、それに適した分子標的薬を選択する方法を確立することが早急に求められます。

分子標的薬とは別に、新たな手法として遺伝子に働きかける方法や免疫細胞に働きかける方法があります。
がんは突然がんになるわけでなく、例えば大腸がんでははじめ、正常粘膜細胞内のAPCという遺伝子が傷つくことで細胞が変化し腺腫ができ、さらにK-rasという遺伝子の傷で細胞が悪くなり隆起します。続いてがん抑制遺伝子であるp53が傷つくことで腺腫内にがんが発生、最後にSMAD4,PTENの傷で進行がんに発展すると言われています。
このp53やPTENの傷を元に戻そうというのが遺伝子治療の基本で、ウイルスの力を借りて体内に注入後、がん細胞のアポトーシスを導こうというものです。
ただし、この効果も限界があり現時点では、高活性化NK細胞を用いた併用療法や腫瘍が縮小した後に標準療法を加える方法がとられています。
将来的には目的の遺伝子を狙った位置に挿入できるゲノム編集という技術が確立すれば更なる効果が期待できます。

また新たに遺伝子治療と細胞療法が合体したキメラ抗原受容体T細胞療法:CAR-Tがあります。通常がんは自身の抗原性を隠し免疫をすり抜けようとします。CAR-Tはこの抗原性を認識する力を発揮するキメラ遺伝子を自身のキラーT細胞に遺伝子操作で導入した後、体内に戻す方法です。がんを殺す確率が最も高い治療法とされており、治療困難な白血病に対して9割近くの人を回復させました。しかし、自身のB細胞を攻撃したり、免疫応答に大切なサイトカインを狂わせる副作用がでます。今後この副作用が調整できれば、がん治療の強い味方になります。
一方、免疫細胞に働きかける方法としては最近話題のオプジーボ(抗PD-1抗体)を用いまたこれを応用した方法があります。がんはPD-L1という物質をつくり、がんを攻撃するT細胞のPD-1に結合することでその攻撃を免れています。オプジーボはその結合を阻みT細胞の攻撃を復活させる抗体薬です。現在、悪性黒色腫と非小細胞性肺がんへの保険適応があり、そのほかのがんには使用できません。

しかし、湘南メディカルクリニックの阿部吉伸先生は保険診療以外の形をとることで様々ながんに用いています。その施設ではオプジーボを少量ずつ投与することで副作用の発現を避けつつ、活性化NKT細胞との併用療法を行っています。
昨年の9月からの半年間に245人にこの方法を用いたところ約半数でがんの縮小がみられたと報告しています。
またオプジーボと似て樹状細胞の免疫のチェックポイント阻害を行い、さらに制御性T細胞を抑え込むことでT細胞の活性化を促すヤーボイという薬を追加した場合、8割の人にがんの縮小効果が見られたようです。
そして、この内容を報告していた阿部先生自身がもし自分ががんになったら真っ先に受けたい治療であると述べていたのは印象的でした。

ここ数年NK細胞や樹状細胞を用いた細胞療法が行われてきましたが、1,2種類の細胞だけでは効果の限界があります。
また樹状細胞の成熟には自然免疫のNKT細胞の活性化が不可欠であることやがんの原発巣と転移巣では抗原の出方が異なり、転移巣ではよりNK細胞の働きが必要であることが分かってきました。
このことからキラーT細胞、NK細胞、γδT細胞、NKT細胞、樹状細胞の5つをまとめて使う5種複合免疫療法も行われています。

さらに樹状細胞ワクチン療法を新たな方法で今まで以上に強化したエイビーバックス療法があります。これは日本での個別化医療の推進に尽力しているアベ・腫瘍内科・クリニックの阿部博幸先生が作り上げた方法です。
今まではショートペプチドでWT1など1つのがん抗原を樹状細胞に入れていましたが、新たに単球未分化増殖技術により樹状細胞を増殖させ、ロングペプチドにて4~6種類のがん抗原を樹状細胞に入れることで、がん細胞の多様性に対応した樹状細胞を沢山作ることができるようになりました。副作用も少なく、かなり効果のある方法です。当院でも取り入れたい方法の一つです。

現在個別化と言ってもさまざまな方法があり、何がある一人の患者さんに適しているかはまだわからない状況です。効果、副作用、経済的な問題も考慮するとさらに複雑になります。

この複雑さを少しでもシンプルにするために血液中のCTCs(循環腫瘍細胞)検査結果による治療法の選択というアプローチがあります。
CTCsは転移の原因となるがん幹細胞に相当し1ccあたり5個以上検出されるとがんの危険性があると判断されます。
さらにこの細胞の遺伝子、分子標的薬、抗がん剤、天然物による感受性試験の結果からその人に効く薬の選別が可能になります。つまり効かない抗がん剤で苦しむことがないように事前に判断ができるわけです。

こういった検査を利用して複雑に絡み合った問題を一つひとつ解きほぐしながらデータを積み上げていくことが個別化医療の基本であると思います。
この積み重ねがいずれ標準になり、今の標準治療の形が変わる可能性はあります。
現時点で私が思うことは、自身ががんになった時に何とかして化学療法を後回しにしたい。そのためにはCTCs検査をして、遺伝子治療やピンポイント放射線で縮小後、手術ができるならまず手術を行い、細胞療法、抗体療法の順で治療を行うことを考えています。
しばらくしてこの順番も変わる可能性もありますが、私としては体への侵襲が少ない順に行うことを基本にしたいです。

もちろん温熱とビタミンC点滴は初めの段階から使います。

photo; The University of Tokyo Hospital

がん治療の守備固めに漢方を使おう

がん治療の中で大切なことはがんを縮小させる攻撃的な面と抗がん剤や放射線などによる副作用を軽減させる守備的な面の両立です。

抗がん剤により貧血、白血球減少、下痢、しびれ、味覚障害、口内炎、食欲低下などが起こります。

これらに対し様々なアプローチがなされますが、中でも大事なことは栄養や水分を口から入れる摂食をいかに維持するかです。

栄養や水分が不足すると元気がなくなって活動性が低下し、がん治療による弊害が前面に出てきて、がん治療そのものの継続ができなくなります。

そこで摂食を維持しこれらの副作用を軽減させるために漢方が用いられます。

漢方には保険のきく医療用医薬品(例えばツムラ、クラシエなど)のものとそれぞれの薬局の伝統的な特徴もって調合される自由診療的なものがあります。

医療用医薬品の漢方は多くの施設で使われているため論文も増えてその精度も高まってきています。

よく用いられる漢方の一つに六君子湯があります。これは逆流性食道炎の時にしばしば処方されますが、シスプラチンなどの抗がん剤による食欲低下や胃がん術後の慢性的な胃痛、胸やけを呈する機能性ディスペプシアに有効です。

六君子湯は胃からのグレリンというホルモンの分泌を促し、上部消化管の蠕動運動を良くして食欲を増進させます。よって代謝が改善され、がんの悪液質の改善の力となります。

また、疲労感や抑うつで食欲が低下している時に気を補う補中益気湯を用いることがあり、ある一定の効き目がありますが、この効果が不十分な場合には六君子湯が必要になります。

抗がん剤であるシスプラチンは食欲低下のほかに手足のしびれや口内炎を引き起こすことがあります。特に口内炎が続くと食欲は落ちてしまいます。口内炎には半夏瀉心湯が有効とされ、これは炎症部位でのプロスタグランジンE2(PGE2)という痛みに関する物質を抑制する働きがあります。アズノールうがい液でうがいをした後に服用すると効果的です。

便秘もおおいに食欲低下に関係します。大腸がん術後の腸閉塞の予防によく大建中湯が使われます。大建中湯は腸管運動促進や血流改善作用があり、便秘の改善に役に立ちます。

また、咳が続いて食欲が低下した場合、まず咳を抑えるために、麦門冬湯を選択します。これは肺がん術後や肺転移時の咳に対してたびたび使われる漢方です。麦門冬湯はカプサイシン、ブラディキニンやPGE2などの炎症物質の産生抑制、遊離抑制作用の他に気道を潤す作用があります。

しびれなどの末しょう神経障害も直接的ではありませんが、食欲に影響を及ぼします。手足の軽いしびれからボタンがかけられないなどの運動障害、味覚障害、自律神経障害、耳鳴りや聴力障害などがひどくなり日常生活ができないレベルに至ることがあります。しびれに関して血流改善や鎮痛作用のある牛車腎気丸が有効との報告があり、他にアルツハイマー病で使われる抑肝散も使われることがあります。そして牛車腎気丸だけで効果不十分な場合ブシ末の追加投与が役に立つ場合があります。ただし、重度の場合、漢方だけでは不十分なことが多々あります。

抗がん剤の副作用で元気がない場合に体力回復を願って十全大補湯がよく用いられます。十全大補湯は骨髄造血機能、免疫機能やQOLの改善に有効とされますが、食欲を低下させたり炎症を助長してしまう副作用があるので食欲不振がある場合は不向きです。

漢方には副作用がないように思われていますが、全く無いわけではありません。抗炎症作用のある黄ごんという生薬は肝障害を引きおこす可能性が10%という報告や間質性肺炎に至ったという報告もあります。上記の漢方の中では半夏瀉心湯があてはまるので注意をしながらの服用が大切です。

また甘草を含む漢方により直接ビリルビンが上昇や低カリウム血症を発症することが報告されています。甘草は上記の大建中湯や牛車腎気丸には含まれていませんが、それ以外のほとんどの漢方に使われていますので、時々血液検査をしたほうが良いでしょう。

医療用医薬品の漢方を上手に使い副作用の軽減しつつ、抗がん剤や放射線治療の継続ができればよいのですが、そうではない状況に置かれることが多々あります。

このような場合、独自の製法で効果を上げている漢方薬局の協力が必要になります。

福岡県にある創業110年の老舗薬局の榎屋相談堂さんではさまざまな病気の相談を全国から受けており、がんだけでも200件以上あるそうです。

この薬局は栄養補給と強い免疫力の獲得によってがんと共存する長期戦略を目指しており、胸水や腹水の溜まった方や余命があと少しと言われた方々に対応しています。

その処方には独特のものがあり、海の栄養素である牡蠣、大地の栄養素として紅参、エノキタケとブナシメジを中心に他の生薬をブレンドし処方しています。

この薬局の代表者である中尾薬剤師はこれらの処方により奏功や安定が50~60%得られると述べています。

当院は数年前から重度の患者さんに対し相談堂さんと連絡を取り合いながら処方をしており、実際、状態が良くなった方もおられ、現在クリニックと薬局が密に話し合える良い関係にあります。

がん治療において医療用医薬品の漢方であれまた老舗薬局の漢方であれ、漢方を使いこなすことで、守備的な面を確固たるものにすることができます。

また体力や免疫力の回復により、元気な日常生活を再び取り戻すことができるかもしれません。

標準治療にプラスαとして漢方を取り入れることはとても大切であると思います。

photo: spainfitness.com

奥多摩の巨樹にかこまれ 森林セラピーでがん予防

梅雨の晴れ間に中央線に乗って奥多摩の森林セラピーに参加してきました。

森林浴はよく耳にしますが、森林セラピーという言葉は初めでした。訳すと森林療法になるので、体にいいこと好きな私としてはとても興味を持ちました。

森の中にいると自然と気持ちがよくなります。

森林浴は血糖値、血圧、ストレスホルモンを低下させ、自律神経のバランスを整えてリラックス効果をもたらすものとして1982年に提唱された概念です。

この頃より森林が体に与える効果の研究が進み、免疫力が上がるなど実証されてきました。森林セラピーはNPO法人 森林セラピーソサエティにより商標登録されております。

その総合サイトによると森林セラピーは医学的な証拠に裏付けられた森林浴効果のことで、森を楽しみながらこころと身体の健康維持・増進、病気の予防を行うことを目指すものとされています。

実際にある森の森林浴効果が都会との比較実験により証明されれば、その森は森林セラピー基地として森林セラピーソサエティから認定されます。

現在、全国で62か所の基地とセラピーロードが認定されており、今回の奥多摩はその一つで“おくたま巨樹に癒される森”と呼ばれています。

森の中を歩くことが基本ですが、ヨガやそば打ちそして星空浴などいくつかが組み合わされたメニューがあり、セラピー基地ごとに特色があります。

奥多摩の駅からバスで約40分揺られて山のふるさと村に到着。

施設の部屋でガイダンスを受けたのち血圧と唾液アミラーゼ測定でストレス度をチェック。私自身のストレス度はやや高めでしたが、気にせずにそば打ち体験へ。

はじめてのそば打ちは思っていた以上に難しい。しかし、これが後の昼食になるので、額に汗して一生懸命につくりました。出来上がったそばは手前味噌ながらなかなかの物で地元のおかずと合わせ、さらにおいしくいただきました。

昼食後、いよいよガイドさんと一緒に森の中のセラピーロードをウォーキング。

今回は奥多摩湖畔に沿ってつくられた全長12kmの“奥多摩湖いこいの路”を行きましたが、私たちは散策しながらリラックスすることが目的なのでそのうちの2kmのみを歩きました。

木立の間からエメラルドグリーンに近い色の湖が見えて、湖面から吹き上げてくる風がほてった体を適度に冷やし、ヒノキや杉の森の香りにつつまれてとても心地よい気分になりました。

湖畔にてガイドさんから森に関わる小動物や虫、植物の話を聞きながら、奥多摩でとれたハーブのティータイムも癒しを演出してくれました。

続いて皆で湖面に向かって奥多摩式森林呼吸法を実践し、森林セラピーのクライマックスを味わいました。

施設に戻り再度血圧と唾液アミラーゼの測定を行ったところ、ほとんどの方に血圧の低下とアミラーゼ値の減少が見られ、森林セラピーの効果があったようです。

私は最低血圧(血圧の下の方)の低下がみられ、客観的な効果としては少ないですが、その後の温泉の気持ちよさと合わせてとても満足することができました。

是非、多くの方に味わっていただきたいと思います。

森林浴は癒し以外に免疫力を高める効果があり、特にNK細胞の活性を上げるといわれています。NK細胞はがん細胞を直接殺し、感染症の防止にも役に立っている細胞です。

しかし、ストレスによりNK活性は抑制されるので、ストレスを低減することが重要になります。

日本医科大学の李先生は森林と都市部の生活の比較実験を行い、NK活性、NK細胞内の3種類の抗がんたんぱく質と尿中アドレナリン濃度を測定しました。

結果は森林生活をはじめて2日でNK活性とNK細胞数が増加し、一方都市部の生活では変化が見られませんでした。

また、抗がんたんぱく質は同様に都市部では変化がなかったものの森林生活において2日で上昇しました。

NK細胞はパーフォリン、グランザイム、グラニュリシンなどの抗がんたんぱく質を放出してがん細胞を攻撃します。

実験においてこの3種の増加がみられたことから、抗がん活性も高まったと考えられます。またこれらの活性が1か月後も持続していたことから、月に1度森林浴をすれば高い免疫機能を維持できる可能性があることもわかりました。

ストレスの指標である尿中アドレナリン濃度は森林生活において減少したものの都市生活では変化がなく、森林生活がストレスを減少させた結果が得られました。

最近よく耳にする森の香りの成分であるフィトンチットは樹木が自らを害虫から守るために発散する揮発性物質です。

それが人間の免疫にどういった影響を与えているかを調べるために、フィトンチットとしてヒノキ材と葉油、α-pineneを用いて試験管レベルでの実験を行ったところ、ヒトNK細胞内の抗がんたんぱく質が増加しNK活性を上げる結果が得られました。

結果をまとめると、森に漂うフィトンチットが呼吸を通して体内に入り血液に溶け込み、直接的に免疫細胞を活性化させたといえます。

またフィトンチットが脳を鎮静化し自律神経に作用しストレスホルモンを減らすことで、間接的にNK活性を上昇させる効果をもたらすこともわかりました。

がん予防においてはNK活性を上げて維持することが大切です。

免疫力向上にはさまざまな方法がありますが、森の中に入れば直接的、間接的に免疫力を上げてくれるので、私たちはもっと森に近づき接してゆくべきでしょう。

森を活用した森林セラピーはがん予防や健康維持に役立つ理にかなった良い方法であり、気軽に参加でき楽しめるので、多くの方に知っていただきたいと思います。

奥多摩は思っていた以上にいいところでした。

慢性炎症から早く逃れてがんにならない体づくりをしよう

私が医者になりたてのころ先輩から、患者さんを初めて見るときに、その病気が炎症なのか感染なのかもしくは腫瘍なのか、まず大きく分けて考えなさいと教えられました。たしかに病気を見分ける際には大きな間違いが減り、今でも役に立っています。

時が経ち、最近では炎症が様々な病気の原因や進行に関わっていると言われるようになりました。ピロリ菌感染と胃がん、C型肝炎ウイルス感染からの肝がんの発症など感染に起因する発がんや糖尿病、その合併症の血管病変も慢性炎症によるものとされています。

特に糖尿病に罹っているとがんの発症が20%も増えるという研究結果もあり注意が必要です。

肥満も慢性炎症に関係しており、脂肪組織中の活性化したマクロファージから炎症を引き起こすサイトカインのTNFαが出て、これが脂肪細胞に働きかけて抗炎症作用のあるアディポネクチンという善玉ホルモンの分泌を抑制し、炎症がますます進んでしまうのです。

炎症を示す血液データの中にCRPというものがありますが、肥満でCRPが上がる傾向にあるのはこのためです。さらにアディポネクチンの低下によりインスリン抵抗性が高まり糖尿病になります。

このように炎症によりさまざまな病気が引き起こされ、やがてがんに至ります。

CRPとがん患者さんの生存率をしらべた研究(J Clin Oncol 2009 May1;27-13)では、CRPが高いほど生存率が低下する結果が出ており、炎症をいかに抑えるかが鍵となります。

がんの炎症のはじまりはNF-κB, STAT3, HIF1αなどの転写因子の活性化です。

これらを活性化させる要因として感染や環境や食事による炎症の外因性経路と  がん遺伝子活性化やがん抑制遺伝子の不活性化による内因性経路があります。

この2つの経路の刺激により転写因子からプロスタグランジンPGE2やCOX2が産生され炎症細胞が活性化して、がん関連の炎症に至ります。

そして、がん関連の炎症により細胞増殖、アポトーシス抵抗性、血管新生、免疫の抑制、腫瘍細胞の遊走や浸潤、転移、ホルモンや抗がん剤への応答変化などが起こるとともに、再び転写因子を活性化することで炎症が慢性化して、がんが進行します。

また、がん細胞からはIL6という炎症性サイトカインの放出が続き、炎症が拡大していきます。体内で炎症が拡大すると食欲が低下し代謝機能が落ち、タンパク質の異化が亢進することで筋肉のタンパク質がなくなり痩せてゆきます。また腸管からの鉄の吸収が落ち貧血が進み元気がなくなり体力が衰えてゆきます。

よって、この炎症を止めるためにはNF-κBやCOX2を阻害し、さらにアラキドン酸の炎症カスケードを抑制しなければなりません。

NF-κBの阻害にはビタミンE,C,B6,フコイダン、クルクミンがあり、COX2の阻害には整形外科で良く使われている痛み止めのセレコキシブがあげられます。疫学的に痛み止めの非ステロイド系消炎鎮痛剤を服用している集団では、発がんリスクが低いことが示されており役に立つでしょう。そしてアラキドン酸の抑制にはEPA(エイコサペンタエン酸)が有用です。

さらに腸管粘膜の保護のためにプロバイオティクスや、真菌感染に対しては抗真菌剤を用いることで、炎症をあらゆる角度から抑えることが大事です。

特に、酸化ストレスは炎症の要因となりNF-κBを活性化させるので、ビタミンEやCの抗酸化アプローチも大切です。

天然物質であるクルクミンは、がんの増殖に関わるほとんどの因子に対し抑制的に働くことが分かってきており、今後とても有用な物質になるでしょう。

またn-6系の脂肪酸であるアラキドン酸代謝をn-3系のEPAやDHAが拮抗的もしくは直接的に抑制することで、炎症を抑える働きをします。

このように慢性炎症とがんの関係が徐々にわかってきているので、私たちもこれらのメカニズムを理解した上で、生活習慣を改め、食事の工夫をしてゆくべきでしょう。

私は適度な運動はもちろんのこと糖質を控えてタンパク質やヨーグルトを摂ることを日々の基本とし、ブロッコリー、ニンニク、トマト、キャベツなど多めの野菜と良質なオイルの摂取を心掛けています。この上でウコン(クルクミン)、がごめ昆布(フコイダン)、青魚(EPA,DHA)などを加えて慢性炎症の予防をしております。

また漢方でも黄連(オウレン)、黄ごん(オウゴン)、半枝蓮(ハンシレン)など炎症を抑える清熱解毒薬があり、抗がん剤の副作用軽減や抗腫瘍効果を期待して用いられます。

当院と関係のある九州の漢方薬局の相談堂では地竜田七という漢方を抗炎症に用いており、今後は食事プラス漢方で慢性炎症を確実に抑え込んで、がんにならない体づくり、がんを進行させない体づくりを目指してゆきたいと思います。

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