優れた技を持った先生に出会いました。

先日点滴療法研究会主催の特別ワークショップに参加してきました。通常は数名の講師で行われますが、今回は17名の講師によりバラエティーに富んだ発表がなされ大いに盛り上がりました。
ビタミンC点滴の応用から腹水の治療、樹状細胞療法、幹細胞に働きかけるサプリメント,プラセンタ治療、分子栄養療法、パーキンソン病治療、αリポ酸、水素水点滴、循環がん細胞、遅発性フードアレルギーなど幅広いテーマです。
講師の方々は標準治療を行いつつも、患者さんにもっと良い方法はないかと日々探し、研究されているので、それぞれに深い考えと技があります。それゆえ発表している姿から熱心さが伝わってきます。必然的に私も気合が入ります。

特に熱さが伝わってきた先生は日本橋で癌性腹水の治療をしている尾崎道郎先生です。私も以前こちらのクリニックに当院の患者さんをご紹介し、とても良くしていただいたことがあります。
がんでお腹に水が溜まるとパンパンに張り、呼吸が苦しく、仰向けにも寝ることができず、非常に辛い状態になります。
通常水分、塩分制限、利尿剤投与、アルブミンの補充をしますが、これらですんなり改善することは少なく、多くは我慢したり、腹水を抜いて一時しのぎをします。
しかし、腹水を抜いてもすぐ溜まりますし、腹水にはアルブミンが多く含まれるので、抜くたびに栄養が失われ、徐々に弱ってゆきます。

そこで考えられた方法がCART(腹水ろ過濃縮再静注法)というものです。
CARTは超音波を用いてお腹に針を刺し腹水を抜いてバッグに貯めます。
バッグを点滴台に取り付け普通の点滴のように腕から患者さんに戻します。
その際ただ戻すのではなく濾過器でがん細胞や赤血球、白血球、細菌類を取り除いてから次に濃縮器で水分、電解質を取り除いてアルブミンを取り出します。
アルブミンが低下しているがん患者さんにこのアルブミンを戻してあげることで栄養面を改善し体を楽にします。とても重要なことです。
そこで尾崎先生は病院に来られない患者さんに対して在宅でCARTを行っていますが、がん末期の患者さんの苦しみを少しでも取り除こうとする姿勢は医師として立派に思います。

また、沖縄の平良茂先生は薬に頼らない治療を”無薬療法”と名付けて食事療法をメインに行っています。
ひきわり納豆、亜麻仁油などのω-3系油、卵黄、黒糖を用いた平良式納豆レシピを開発し自閉症や統合失調症、アトピーの患者さんに実践し、がん患者さんはビタミンC点滴療法との併用で治療されています。
この方法は食物の栄養成分がリンパ球の免疫応答に影響を与えることを利用して研究されたもので、副作用がなく体に優しいとても良い方法であると思います。

そのほかにもユニークで実践したいものがありましたが、皆さんに共通していることは患者さんを楽に少しでも良くしようとする確固たる信念があることです。

私も見習って今後の診療に役立てていきたいと思います。

がん幹細胞と温熱

私たちの体の中には細胞の元と言いましょうか、未だ何色にも染まっていない幹細胞(かんさいぼう)というものがあります。
幹細胞は自分自身を何度も複製したり、ほかの細胞に変化したりできます。
京都大学の山中先生が遺伝子操作で人工的に開発したiPS細胞や受精卵を応用したES細胞なども幹細胞の一種です。
これらは白血病の治療や再生医療に応用され、将来さまざまな形で役に立ってゆくものです。
ところが近年、がん細胞の中に幹細胞の性質をもったがん幹細胞の存在が示されるようになってきました。
最近ではがん細胞の一部にがん全体の成長を促している特殊な細胞(がん幹細胞)があり、これを取り除かないと悪化や再発は防げないとする研究成果がサイエンスやネイチャーなどの有名雑誌に掲載されました。

がん細胞は増殖力が旺盛で、細胞が不死の状態になり、周りに浸潤、遠くへ転移する特徴がありますが、転移や再発はがん幹細胞によるものと考えられています。
がん組織の中にはDNAを増やしている時期のものや分裂しているものや静かに止まっているものなど様々な段階の細胞が混在しています。
抗がん剤は増殖時期にあるものには効きますが、静かな時期のものには効かず、がん幹細胞を残してしまいます。そしてこの幹細胞が生き残り、目覚めて再発へと向かいます。

放射線治療においても再発の問題があり、低酸素がん細胞が注目されています。
がん腫瘍を立体的に考えてみると血管の近くにある細胞は酸素が大いにあるので活発ですが、血管から離れるにつれ酸素が少なくなり活動レベルが下がり、最も遠いところでは細胞は壊死に向かいます。
このような階層付けが血管を中心になされて、実際の腫瘍の中では活発な細胞と死んだ細胞が混在しています。

低酸素環境下において転写因子のHIF-1(低酸素誘導因子)は重要な機能を持ち、血管新生や転移、細胞浸潤に関係する多くの遺伝子発現を促し、低酸素がん細胞を特徴付けるものになっています。
そして血管を中心とした階層ごとに性質が少しずつ違った低酸素がん細胞が存在しており、酸素分圧に応じて分布することがわかりました。
そこで放射線治療を行うと、まず血管近くの酸素が豊富ながん細胞が死滅しますが、その領域の酸素消費が減ることで、すぐ隣の階層にあり死にかけていた低酸素がん細胞がHIF-1活性を獲得し、息を吹き返し自ら血管新生を誘導しつつ、血管に向けて移動します。
これが放射線治療後がん再発のメカニズムの一つです。
京都大学の原田浩先生によるとHIF-1阻害薬を放射線治療と併用すると治療後のがんの再発をぐっと減らせるようです。しかし、この阻害薬の使用はまだまだ先になります。

千葉県がんセンターの研究では低酸素下の肺がん細胞ではHIF-1を介して脱分化が促進され、より幹細胞様の性質を示す細胞に変化していることから放射線治療後の再発もがん幹細胞が関与している可能性があります。

転移や再発に関係するがん幹細胞は低酸素下にてHIF-1で元気になるので、何とかしてHIF-1を抑え込まなければなりません。

面白いことに温熱療法では、軽度高温(39~41℃)の低酸素の環境でHIF-1活性が著明に抑制されマクロファージで呼吸バーストが惹起されることが証明されています。
そこで、さらに研究を進めた奈良県立医大の大森先生によると弱い温熱刺激はがん幹細胞に対して抑制効果があり腫瘍縮小にも関係しているようです。

まだまだ研究が必要な領域ですが温熱療法は安全で副作用もないので私自身もとても良い方法であると思っています。

すぐにできる温熱療法としてお風呂がありますが、40℃であれば20分、41℃であれば15分、42℃であれば10分湯船につかることを週2回繰り返す入浴法がお薦めです。

またがん予防のためにも温浴は大切です。

温故知新 ブログスタート


このたび新聞で興味深い記事を見付けたので、ブログの形で残して行こうと思います。

 

10月21日の日経新聞 「イレッサ」間質性肺炎で死亡 副作用の仕組み一端解明

 

慶応大、熊本大、日本医大の研究グループが特殊なタンパク質の減少が関与していることを発見。

その特殊なタンパク質はHSP70というもので、肺がん治療薬のイレッサによる間質性肺炎を防ぐ機能があり、これが減少すると肺炎が引き起こされます。

間質性肺炎は治療が難しく肺が徐々に硬くなりガス交換ができなくなって死に至ることもある怖い病気です。

そこでこの研究者たちはマウスを使ってHSP70を増やすことで知られている胃炎、胃潰瘍の治療薬の「セルベックス」をイレッサとともに投与したところ、HSPの量が回復し間質性肺炎の発症を抑えることができたのです。

肺がん患者さんにとっては重大な副作用がなくなるので、とても良いお知らせです。

私が注目したのはセルベックスという薬とHSP70というタンパク質が関係し、副作用の予防という形でがん治療に役立っていることです。


 セルベックスは私が二十数年前医者になりたてのころ、先輩から一番初めに教えられた胃薬であり、今ではクラシックな薬という印象です。

HSP( ヒート・ショック・プロテイン Heat Shock Protein) はショウジョウバエを高温で飼育したときにたくさん増えるタンパク質として1962年に発見されたのでこれもクラシックなタンパク質といえます。HSPはさまざまなストレス刺激で細胞内に誘導されますが熱ストレス(例えば温泉など)が最もHSPを誘導します。そして、HSPは弱った細胞内のタンパク質を修復し再び元気な細胞にする作用をもっており、自然治癒力の源のようです。

 


今回の研究は温故知新と言いましょうか、昔を振り返るだけでなく再構築することで現代の新しい知見となることをダイレクトに示したものだと思います。世の中には忘れ去られたり、見過ごされたりしている過去のものを掘り返すことで現代に生かせるものがたくさん眠っているように感じます。

私はそういった研究が好きです。