奥村康先生のおもしろい免疫のお話

今日は大学卒業以来、25年ぶりでしょうか、免疫学の奥村康先生の講義を聴きました。奥村先生は免疫学の中でも Tリンパ球の研究では大変有名で、最近ではR-1ヨーグルトを食べるとインフルエンザにならないことを研究し、多くの方の食行動を変えた先生でもあります。

なにより学生時は必ず笑いをとる授業で、皆から人気があり、私は世間話など免疫とは関係のない話を今でも覚えています。独特の風貌と語り口が懐かしく、今回の講義を数か月前より楽しみにしておりました。

今朝、急な看取りがあったため少し遅刻をしましたが、席に着くとすぐに奥村ワールドに引き込まれてゆきました。以前と変わらない口調で、“世間ばなし風免疫学”とでもいいましょうか、いくつものショートストーリーをテンポよくお話しされ、所々で笑いがおこっていました。あーこの感じ、昔と一緒だと、感激しつつ聞き入りました。

そのなかのいくつかをご紹介しますと

2010年に九州地方で家畜の伝染病である口蹄疫が牛や豚に広がり問題となりました。口蹄疫は非常に伝染力が強く、口や鼻、ひずめの付け根に水泡ができるのが特徴で、この水泡が破れて傷になると、食欲が低下し元気が無くなり弱って死に至る病気です。

これはポリオの親戚のピコルナウイルスによる感染症で、今回は中国から輸入した藁にこのウイルスが付いていたことが原因だったようです。

この藁を加熱処理した鹿児島県では口蹄疫が発症せず、加熱処理しなかった宮崎県で多く発症しました。当時の有名だった知事が奮闘されていた様子は多くの方の記憶に残っていることと思います。

しかし、なかなか収束せず拡大しそうな時に、満を持して奥村先生は当時の政府関係者にすぐにワクチンを使用するよう連絡したそうです。すると翌日には接種がはじまり、その後2週ほどで収束に向かいました。

私は当時これが日本全国に広がったら、国産牛が食べられなくなってしまうと心配していましたが、いつのまにか沈静化し安堵したことを覚えています。この裏には奥村先生の活躍があったわけです。

つづいて、

結核は日本では年間2万人発症し、世界で中蔓延国とされています。その予防にBCGワクチンというものがあります。通常1歳ごろまでに打ち10から15年ほどの効果を期待し結核の発症を5~7割抑えるといわれています。

しかし、奥村先生の意見としてはBCGで作られた抗体は体の大きな結核菌には効果がないようです。ただ厚生省として続けなければならない特別な事情があることと、そして東南アジアなどの蔓延している国で若い人と接触すると結核に感染する可能性がぐっと高まるので、十分に注意をすることなどを教えていただきました。

また、

春が近づくと悩まされる花粉症ですが、千葉駅近くの刑務所にいる受刑者を調べたところ花粉症にならないようです。ここの受刑者はほぼ重い刑ですが、非常にインテリジェンスが高く、いつも緊張を強いられていることが、花粉症のメカニズムに関係しているらしいのです。

発症にはヒスタミンが関与しますが、緊張により作り出されるアドレナリンがこのヒスタミンをブロックするため、発症が抑えられ、逆にゆったりとした幸せな人はアドレナリンが少ないため花粉症になりやすいとお話していました。

そして、友達としておつきあいするなら花粉症の人がおすすめとも付け加えていました。

アレルギー関係のアトピー性皮膚炎において、モンゴルの都市部以外に居住している人にはアトピー性皮膚炎がないことを例にあげ、風呂にあまり入らないことが理由の一つであることを述べていました。

また日本においては赤ちゃんの時の石鹸の使用が問題で、親が子供をばい菌から守ろうとするあまり、ごしごしと皮膚をこすり皮脂を取ってしまうと、薄くなった皮膚からダニやカビなどの抗原が侵入し、体内での防御が続きアトピーへと発展してしまうので、皮膚を清潔にしすぎないことが、アトピー性皮膚炎の予防には大切であるようです。

あまり自然に逆らわない方が良いですね。

ヒトには60兆個の細胞があり、毎日1兆個が生まれてきますが、そのなかで約5千個のがん細胞も生まれます。それを見張り退治するのがリンパ球の2割を占めるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)です。

NK細胞はがん以外にウイルスや細菌が体内に侵入した時にこれらを殺して人間を守ります。1970年代前半にNIHに留学した山形大学の仙道富士郎がT細胞でもB細胞でもないがんを殺す細胞を偶然発見し奥村先生に伝えましたが、当初奥村先生はそんなはずはないと信じませんでした。

ところが、仙道先生と検討していくうちに、この細胞が、がん細胞と出会うと通常の免疫反応とは違った形で、がん細胞を自然に死に至らしめる様子が見られたことから、名前としてナチュラルキラー細胞が良いのではないかと提案したそうです。

つまり奥村先生もNK細胞の発見者の一人なのです。

NK細胞がある特定のがん細胞を殺す割合を測定したものをNK活性といい、活性が高いほど免疫力が高いといえます。

実際にNK細胞がないマウスとNK細胞があるマウスでがん細胞の増殖を調べたところ、NK細胞のないマウスでは圧倒的にがんが大きくなった実験結果も見せていただき、NK細胞の重要性をあらためて認識いたしました。

また奥村先生は年齢的にNK活性は下がっていくのはしょうがないが、より下げるものとして、ストレス、長距離の運転、メンタル的な不安、激しい運動を挙げていました。

また、運動中はNK活性は上がりますが、激しい運動後のNK活性の落ち込みが著しいので注意するよう言っていました。

そしてNK活性を上げるには、良く笑うこと、ウォーキング、ビタミンCや乳酸菌を多く摂ることが大切であることを教えていただきました。

今回は、免疫学では世界のトップレベルの先生のお話だったので、私自身、とてもためになりましたし、このたびのお話を診療の中で多くの方々にお伝えしていきたい気持ちになりました。

あらためて奥村先生に感謝です。

出典:Joshua Stokes, St Jude Children’s Research Hospital

琉球温熱セミナー@AKIBA

春の学会シーズンも終盤を迎え、今月は至る所で会が催されましたが、私たちも琉球温熱恵比寿店と当院との共催という初めての試みで5月10日に琉球温熱セミナーを行いました。

場所が秋葉原でしたので、どうかと思いましたが、おかげさまで多くの方に足を運んでいただき満席となり無事に終えることができました。

今回は琉球温熱本院の屋比久院長を招き、私と二人で、琉球温熱や栄養またはビタミンC点滴療法についてお話をさせていただきました。

屋比久院長の熱のこもった講演では、途中フロアからの質問も沢山出て、普段から皆さんは屋比久院長にいろいろとお話ししたい気持ちを強く持っていることを改めて感じました。

卵と栄養のお話がメインでしたが、皆さんは卵の重要性に気づかれ、中にはご自身の栄養管理がまだ足りないと実感されている方もいたようです。

屋比久院長には生命はタンパク質の塊であり、健康維持にはタンパク質を十分摂取することが必要との基本的な考え方があり、そのためには良質なたんぱく質である卵を毎日2個以上摂ることが大切だと話していました。

つまり、私たちの体の細胞、骨、筋肉、酵素やホルモンはタンパク質を主材料として作られており、タンパクが不足するとこれらの物が作られません。

タンパクは20種類のアミノ酸からできていますが、卵はそれらをすべて含み、特に体内で合成できない9種類の必須アミノ酸を豊富にバランスよく含んでいます。

必須アミノ酸のバランスを数値化したアミノ酸スコアやプロテインスコアでは卵は最高値の100で、申し分のない食品です。

またゆで卵を切った際に黄身のまわりに緑色のすじが見られますが、これはメチオニンという含硫アミノ酸(硫黄を含んだアミノ酸)で、これは血液中のコレステロールを下げ、活性酸素を取り除く作用の他に水銀やカドミウムなどの有害重金属をくっつけて体外に排泄するキレート作用があります。

大豆タンパクではメチオニンが不足しているため、こうした作用を発揮できませんので、大豆だけに偏っている方は時々でも卵を摂った方がよいでしょう。

また卵にはアミノ酸だけでなくビタミンA、ビタミンB1、B2、D、鉄、カルシウムをはじめ沢山の栄養素が含まれています。

特に、黄身にはレシチンが豊富に含まれ細胞の細胞膜を作る成分として使われ、その水と油を中和させる乳化作用により血管壁についたコレステロールや老廃物を除去し血管をきれいにする働きもあります。

卵はコレステロールを増やすのであまりよくないといった迷信がありますが、このたびの屋比久院長の説明から考えが変わった方が多くいたようです。(後のアンケートの結果から)

私は以前に屋比久院長の話を聞いてから自分でも調べてみてなるほどと思い、今では1日に2個以上は納豆と一緒に混ぜてご飯にかけることや、目玉焼きにして摂っています。

今回、屋比久院長が示されたスライドの中で面白いものがありました。

それは患者さん自身が描いた絵を院長にプレゼントし、スライドにしたものです。その絵というのは秋田県の玉川温泉を描いたものですが、そこにはエリアごとにその患者さん自身で測定したラジウムの量が書いてあり、どの場所が一番効能のある所かを示した図とも解釈できました。

玉川温泉に行かれる方には、とても参考になる絵で、今度そのスライドを譲ってもらおうかと思います。

屋比久院長の話は盛り沢山であるため、今回のように1時間では短すぎて温熱と栄養に関して十分に伝えきれなかったようですし、聞きに来られた方ももっとお話をしてほしかった印象です。

次回のセミナーではもう少し長く時間をとれるようしたいと思います。

医療クラウドの波

クリニックITフォーラム2013に参加してみました。

これは電子カルテの展示場を運営している会社が企画していて、医療IT関係の講演といくつかの会社の電子カルテや画像ファイリングシステムの展示を兼ねているものです。

私自身ITに対してはあまり関心がなく、別に無理してIT化しなくても何とかやっていけると思っている昔人間ですが、なぜかひたひたと診療所にもIT化の波が押し寄せてきている感じが最近します。

真綿で首をしめられているようでちょっと苦しい、もう逃げられないのか そんな気持ちです。

私が医者になった頃はWindowsもなくマッキントッシュのコンピューターが高い値段で出回り始めた時代ですので、紙カルテにどっぷり浸かっており、電子カルテやIT化には少し抵抗があります。

しかし、このまま何もしないでいると時代に取り残されてしまう気がして、このたび参加することになったのです。

まず注目したのが、@訪問ドクターというタブレット(iPadなど)を使った在宅医療支援システムです。

私の場合、在宅訪問する時は年々重くなる紙カルテを持ち込んでいます。在宅医療は介護、看護や薬局関係など紙でのやり取りが多く、それらを必要最低限カルテと一緒にすることもあり、一日の訪問が10人となるとかなりの重さになります。

これらの情報をタブレットに入れて訪問できればとても楽です。@訪問ドクターの特徴として、クリニックの電子カルテと連動しているのはもちろんのこと、手で打ち込むことなくしゃべったことがカルテに記載される音声認識入力ができることや湿疹、褥瘡などその日の体の変化をその場で内臓カメラで撮影し、コメントを加え保存できることです。

今までのようにデジカメで撮り、プリントアウトし日付を確認しながら紙カルテに糊で貼り付ける作業が無くなります。

またデジタルですからいつでもどこでも入力したり参照できたり、スタッフ間でデータの共有もできます。

在宅医療は医者と患者だけで成り立つものではなくケアマネージャーやヘルパー、看護師、薬剤師、歯科医師の連携があってこそ成り立つもので、情報管理をしつつ共有し合えれば、より深くかつ効率的に在宅医療ができるような気がします。

心配な点としてはデータの保護や安全性はどうかまた、システムが故障した時に訪問診療が継続できるのかがあります。

私の知り合いで2000人以上の在宅患者さんを診ているクリニックは一度電子カルテにしたものの再び紙カルテに戻したようです。

やはり介護、看護事業所などとの膨大な量の紙でのやり取りと電子カルテがうまくかみ合わないことと厚労省の指導のときに書類をまとめて提出するのに時間がかかり過ぎて間に合わない可能性があるためと話していました。

他の展示で面白いと思ったのは徹底的に紙カルテにこだわる医師用の電子カルテです。

電子カルテの欠点としては、画面への打ち込みに忙しく患者さんの顔も見ないで診察していると言われることです。

私を含め中高年の医者は若者のようにブラインドタッチなどできるわけでもなく、慣れ親しんだ紙カルテの診察リズムを崩したくないといった気持ちがあります。

そうした人向けにつくられたイーポートビューアは手書きしたものを全てスキャンしてコンピューター上に保存すると結果的にカルテの様になるというものです。

しかし、在宅医療に向くかどうかは今後検討が必要です。

また、セミナーに参加して良かったと思えるのは習志野台整形外科内科の宮川一郎先生の講演でした。

医師と患者の垣根を低くするiPadや先進的な医療ICTの活用という題目のもとお話しされ、いろいろと驚かされました。

まずこの先生のポロシャツ&チノパンという一般の医者らしくない風体でのプレゼン、流れるような言葉とその言い回し、大きくなったり動いたり躍動感のあるモニター画面などイケてるIT企業の社長といった感じがしました。

何年も医者をしていますがこのようなユニークな先生に出会ったのは初めてです。

宮川先生はクリニックを開業しながらiPadが発売されたときにこれを医療でうまく利用できないかと考え自らITの会社を作ったようです。

宮川先生の基本的な考えは患者自身が自分の病態を正確に理解し、意見をしっかり述べ治療に自己責任をもつ患者参加型医療の普及です。

そのために去年メディカクラウド株式会社を立ち上げました。ツールとして患者さんに病態や治療法を分かりやすく動画で説明できるようにIC動画を次々と制作していますが、これは誰でも気軽に利用できるので多くの人に見られています。

またiPadを用いた問診システムは初診の患者さんが入力した情報が診察室に入った時点で電子カルテ上に反映されるもので効率的な診察を可能にします。

私たちが普段の診療であったらいいなと思えるものと次々と開発してくれます。

またこのたびの東日本大震災で混乱した状況において患者情報が把握できなかった経験を通して、あらかじめ患者情報をカードに入れておける命のMICカードの監修も行っています。

このように宮川先生は現場で真に役に立つICT(情報通信技術)の追求に勤しんでおりますが、いずれこれらが実を結び多くの人が自然に利用し生活の一部になる日が私には想像できます。

今後、陰ながら宮川先生を応援してゆきたいと思います。

セミナーに参加してみて初めて分かったことが沢山あり、食わず嫌いはいけないなとつくづく思いました。

当院もそろそろICTの活用の時期か。

水素療法には水素サプリだけでなく水素点滴や水素注射がある

数年前、知人が水素サプリを作ったので感想を聞かしてくれと言ってきました。

ちょうど水素水が話題になりコンビニなどで沢山販売されていたころです。

私は、気体である水素がサプリの中に入っているというイメージがどうしても湧かず、その製品に懐疑的で取り扱うことをお断りしました。

それ以来、水素製品が売られていても手にすることはありませんでした。

 

ところが、今回点滴療法研究会の特別ワークショップに参加して水素に対する見方が変わりました。

このワークショップは以前もご紹介したように日本全国で点滴療法に関わっている医者の発表会です。

それぞれ皆さん新しい知見を取り入れて工夫されておりいつも感心させられます。

一般の標準治療ではエビデンスの強い縛りがあり新しい治療法を取り入れるのに長い年月を要するのですが、この分野は安全面をしっかり確保した後に可能性を追求するので新しいことを早く取り入れることができます。

今回注目した水素については赤坂AAクリニックの森吉臣先生が臨床実験の結果と合わせてその有用性を水素療法と名付けて発表されました。

水素の主な作用は抗酸化作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用ですが、このほかにミトコンドリアでのATP産生促進、微小循環改善、代謝改善、抗腫瘍作用などが見つかってきています。

日本は水素の研究が進んでおり、この研究の基礎は日本医大の太田成男教授の脳梗塞治療に水素を用いてその有用性を確かめた論文と言われています。

抗酸化作用には活性酸素の除去と酸化脂質の還元修復があります。

一般に活性酸素というと体の細胞を傷つける悪者のイメージがありますが、中にはスーパーオキサイドのように生理活性物質として体に役に立つものもあります。

水素は悪者の活性酸素であるヒドロキシラジカルを消し、一方のスーパーオキサイドには影響を及ぼさないといった面白い作用があります。

つまり、水素の抗酸化作用は生体が持つ抗酸化酵素(SODやカタラーゼなど)産生能を妨げず、ヒドロキシラジカルを選択的に制御できるということです。

抗酸化物質であるビタミンCやビタミンEは互いが協調し、それら自身が酸化されることで、体を酸化から守ってくれていますが、水素は酸化された脂質やビタミンCやEに電子を与えて、酸化を取り除くこともできることがわかってきました。

よって水素は体で重要な抗酸化物質を再度還元するリサイクル作用をもつ物質と言えます。

 

水素療法には水素水や水素サプリメントの飲用、水素ガスの吸入、水素点滴があります。森先生の実験では水素サプリを飲用した前後においてd-Rom(酸化ストレス)の低下、BAP(抗酸化力)の上昇が見られました。

さらに運動選手にサプリメントを与えたところ血清乳酸値の上昇が抑えられ、疲労しにくくさせることがわかりました。

また、尿中酸化ストレスマーカーである8-OHdGは一般的にがん患者で高くなりますが、水素サプリをがん患者さんに服用させたところ7日間でその値が低下してきたことを示されました。

サプリで急にがんが治るわけではないですが、酸化ストレスを軽減させていることが考えられます。

がん細胞は活性酸素を出して、周囲の間質を傷害し、転移や無限の増殖を可能にしています。水素には活性酸素を除去し、がんの増殖や転移を抑え、がん細胞内のミトコンドリア機能を復活させアポトーシスを促す作用があるので、水素点滴として直接血管からがんのある部位に作用させようという考えができます。

そこで森先生は生理食塩水に効率よく水素を浸透させる方法を研究して、質のいい水素点滴をつくり、がん治療に用いています。その結果は予想通り酸化ストレスの軽減が見られたようです。

がんが縮小したかどうかの結果は今回示されませんでしたが、今後が楽しみです。

 

また水素には酸化LDLを低下させる作用があり、動脈硬化、脳梗塞などの循環器疾患や活性酸素が関与するアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患への応用が考えられています。

さらに発展させると活性酸素が関与するすべての疾患に対して用いることが可能で、アンチエイジングや整形外科疾患の腰痛、変形性膝関節症、リウマチなどに注射として使っている医師もいます。

 

私自身このたび水素療法の可能性を感じましたので、さらに勉強を重ね、その有用性がはっきりした後、臨床応用してみたいと思います。

整形外科医は温熱療法をどう思っているのか

瀬戸内を望む広島で日本整形外科学会が開かれました。

天気に恵まれ、学会参加のみならず絶好の観光日和でもあり、厳島神社のある宮島に足を延ばしました。初めての宮島でしたがさすが世界遺産だけあって、整備が細部まで行き届き、とても美しい島という印象をもちました。特に、神社裏手からロープウエー乗り場の紅葉谷までの道が、新緑の楓に覆い尽くされており、すがすがしい気持ちになり、秋に来たら最高な気分になれる感じがしました。

 

学会は整形外科なので、やはり手術に関係する演題が多く、開業医が普段診療で遭遇するものに関しては少ないようです。温熱と名の付いた演題を探してみると骨肉腫への抗癌剤と温熱の併用療法だけでありました。

日本のほとんどの整形外科クリニックで扱っている温熱療法についての演題はゼロで、その治療成績がお互いに語られていないのが現状です。手術を受ける患者さんの数よりも手術以外の保存療法を受ける患者さん数の方が圧倒的に多く、またリハビリ治療の中で様々な温熱治療と接する機会が多いので、整形外科医はもう少しこのあたりの意見交換をして患者さんにフィードバックした方が親切かなと思います。

 

目立たないですが温熱に関する基礎研究はされております。

温熱療法の歴史は古く、古代ギリシアではヒポクラテスが太陽光線を利用した方法や、ローマ時代では温浴、サウナ、砂浴で関節疾患や坐骨神経痛に対処していたようです。整形外科は医療分野の中で治療に温熱療法を最も多く取り入れている科で、クリニックのリハビリ室に行くと数多くの機械が並べられています。いくつか説明しますと、

表在温熱湿布療法といわれるホットパックはタオルにくるんだ温かいものを患部にあてて頚椎、腰椎けん引前の筋緊張緩和に用います。パラフィン療法は温かい流動パラフィンの浴槽に関節拘縮した手を入れて温め、その後の関節運動や作業療法に備えます。マイクロと呼ばれるものは電子レンジと同じ波長が2.45GHzの電磁波で、エネルギーが生体組織に吸収される際に発生するジュール熱を利用したもので、皮膚より奥の筋肉などを温める時に使いますが、体に金属が入っていると使えません。超音波はマイクロよりも体の深い部分を温めることができ、金属があっても大丈夫ですが、手間がかかるのが難点であまり普及はしておらず、限られたスポーツ現場で用いられています。

これらを駆使することで、明らかに患者さんはよくなります。薬や注射だけの治療より温熱療法を加えることで圧倒的に治りの差が出てきます。

では温熱の何が良い効果をもたらしているのでしょうか。

動物の基礎実験では膝関節にマイクロを用いて40℃に温めると関節軟骨のプロテオグリカンやⅡ型コラーゲンが発現し、軟骨細胞内には熱ストレスタンパクのヒートショックプロテイン(HSP70)が蓄積することが見られました。プロテオグリカンは軟骨に水分を保持し、Ⅱ型コラーゲンは軟骨の形をつくり、細胞以外の軟骨基質を形成する大切な成分です。

次に、アミノ酸のグルタミンを膝関節に入れてから温熱をすると、HSP70の発現が増強しただけでなくプロテオグリカンもさらに増え、逆にHSP70を阻害する物質を入れるとプロテオグリカンの発現の増強がなくなる結果が得られました。また別の実験では温熱によって誘導されたHSP70が軟骨細胞のアポトーシス(細胞死)を抑制する結果が出ています。つまり、軟骨を温めたり、グルタミンを与えると軟骨細胞内のHSP70が働き出し、軟骨細胞自体を守ると同時に軟骨基質を丈夫にする方向に向かうといえます。表面上はただ温めているだけにしか見えませんが、分子レベルでは様々な物質が治そうと必死に働いているようです。

 

ストレスで誘導されるHSPにはいろいろな種類がありますが、温熱ストレスで最も多く誘導されるのはHSP70です。HSPは軟骨に良いだけでなく、体にとって他に良い作用があることがわかっています。病気にかかりにくくする生体防御作用やリンパ球に作用して免疫力を高めたり、代謝を活発にして脂肪燃焼をアップさせたり、エンドルフィンを誘導して痛みを緩和するなどがあります。

 

私は日常診療で温熱療法をしていますが、温熱によって元気になってゆく患者さんを見て、明らかに患者さんの治癒力をサポートしているなあと、いつもその効果に感心させられています。

その陰でHSPががんばっている姿を思い浮かべながら、HSPは未だに実態のはっきりしない“自然治癒力”の一端を担っているのではないかといつも思っています。

 

今回の広島の学会のテーマは“彰往察来”(しょうおうさつらい:過去を明らかにし、現状を把握し、それをもとに未来を察知する)でしたので、なおさら温熱関係も入れてほしかったなと思います。