ロコモ フレイル サルコペニアを理解し健康寿命をのばそう

最近至る所でフレイル サルコペニア ロコモティブシンドロームなど高齢の方々向けの言葉が多く聞かれるようなりましたが、統一された定義がなく、それぞれの意味と関係がいまひとつ分かりにくいようです。
そこで私なりに少し整理してみようと思います。
フレイルは2014年に日本老年医学会がFrailty=弱さから作った造語で、加齢による予備力低下が原因で、些細な外的因子に対して健康被害をきたしやすい状態を言います。

サルコペニアは以前ブログで書いたように、ギリシア語で「肉」を表すサルコと「喪失」を意味するペニアを合わせた造語で、筋肉が無くなることを意味しています。主に進行性および全身性の骨格筋肉量や骨格筋力の低下により身体的障害や生活の質が低下するような状態を示し、筋肉をメインにした言葉です。

ロコモティブシンドローム(ロコモ)は10年前に日本整形外科学会が提唱した言葉で、筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、立つ、歩くといった移動機能が低下している状態を示しています。

フレイルには糖尿病、心臓病、認知症などの加齢による慢性疾患が背後に存在している場合が多く、長年の生活習慣が影響を及ぼします。
フレイルの診断基準としては①体重減少(年間5%以上)②疲れやすい(何をするのも面倒だと週に3,4日以上感じる)③歩行速度の低下④握力の低下⑤身体活動量の低下のうち3項目以上を示すものとされます。
またフレイルは身体的なものだけでなく、認知能力や精神的、社会的な面も関係しており、少し動ける人から寝たきりの人も含まれるので割と幅広い概念であるともいえます。
フレイルに適切な治療などの介入をすれば、健康の方向に戻すことも可能ですが、介入をしないと身体機能障害が進み死に至る危険性があります。

一方、ロコモティブシンドロームには移動機能を調べるロコモ度テストがあります。①下肢筋力を調べる立ち上がりテスト②歩幅を調べる2ステップテスト③痛みやしびれ、日常生活動作などの25項目の問診に答えるロコモ25の3つのテストからロコモ度1or2を判定します。
ロコモ度1は移動機能の低下が始まってきていることを示し、ロコモ度2は移動能力の低下が進行して自立した生活ができにくいことを示します。
因みに40歳以上の日本人でロコモ度1は4590万人、ロコモ度2は1380万人いると言われています。
もともと整形外科学会としては人々が要介護にならないように移動機能という面から注意喚起をして予防するためにロコモを提唱したので、フレイルという状態の前段階を示しているように私は感じます。
実際にフレイルにならないようにロコモ対策をしようとロコモとフレイルの連続性を言う老年内科の先生も出てきているようです。

サルコペニアの診断は60歳以上で①歩行速度②握力③筋量の測定により行われ、日本では370万人と推定されています。
整形外科医的にはその数倍は存在する印象があり、このロコモより圧倒的に少ない数に驚きを感じます。
よってサルコペニアはロコモより重症なものとしてフレイルの中の一病態と考えた方がしっくりきます。

厚労省のホームページによるとフレイルとサルコペニアの関係において、Frailty cycleの中にサルコペニアを位置付けています。
つまり、サルコペニアになると筋力、活力の低下で身体機能と活動度が低下し、さらに基礎代謝が低下することで体全体のエネルギー消費が減少します。
すると食欲と食事摂取量が減り、低栄養に至りその結果サルコペニアが進むといった悪いサイクルに陥ってしまうと説明しています。こ
れはサルコペニアをフレイルサイクルの中核病態として位置付けているといえます。

まとめると加齢によりロコモとなり、様々な疾患が加わることでフレイルへと進むが、そのフレイルを加速させる中核にサルコペニアが存在すると私は考えます。

ロコモを進ませないためにはロコトレをはじめとする運動とタンパク質とカルシウムの入った食事が大切と言われています。またフレイル予防にはもちろん運動とビタミンDとタンパク質の摂取が大切です。
運動療法に関する最近の論文では、肥満高齢者に運動指導する際、有酸素運動と筋力トレーニングを合わせて実施することで、有酸素運動または筋力トレーニングのみを実施する場合に比べ、半年後の身体機能はより大幅に向上することが示されました。
有酸素運動だけでは体重が減るだけでなく股関節骨密度も減ってしまい、筋力の増加割合も他群の1/4以下で、あまりいい結果ではありませんでした。
つまり、有酸素運動だけでは加齢に伴う筋量および骨量の低下を加速させ、結果としてサルコペニアやオステオペニアを生じさせる可能性があるので、筋力トレーニングの併用が望ましいと論じていました(Villareal DT. N Engl J Med.2017) 。

また、フレイル予防には絶対に避けなければいけない病気として糖尿病があります。
糖尿病はインスリンが働かず、糖新生の抑制が効いていない状態なので、常に体タンパクの異化か続いており、筋肉のタンパクが使われてやせ細ってゆきます。
フレイル予防におけるタンパク質摂取は食事から60~80g/日くらい必要で、運動とともにアミノ酸のBCAA一つであるロイシンを十分とることも大切です。これはロイシンが筋タンパク質を増やす働きが強いためです。
もちろんタンパク質の代謝を促すビタミンB群は必要ですが、ビタミンDも骨だけでなく筋肉にも働き、代謝を上げてタンパク質の合成を促進することもわかってきました。

これらの栄養素を十分とりながら有酸素運動と筋トレを行い、中核病態であるサルコペニアを予防することでフレイルに陥らないようにしましょう。

このようなことを40代から心掛けていればもちろんロコモにはなりません。

photo: Fraser Health News

運動と栄養と幸運

運を動かすと書いて運動と読みます。以前のブログでもご紹介した言葉です。

私は良い運を引き寄せるためには、運動はたとえ軽めでもまた少しさぼってもやり続けることと思っています。特に無理をせず自身のレベルに合った運動をチョイスすることが大切です。

運動にはスポーツ選手レベルからダイエット、体力向上レベル、そして高齢者レベルと段階に応じたものがあります。

高いレベルの運動は立つ、走るなどの基本的な動作に十分な筋力が加わり、そして高度な技術が備わって初めて可能になります。

中等度以下の運動レベルでは高度な技術ではなく基本的な動作と筋力訓練が中心となります。

筋力をつけるには、筋力訓練、栄養補給、十分な休養が基本となります。

特に胸 腹 背中 大腿など体幹筋にある程度の強い負荷を与え、筋肉にダメージを与えてから約48時間後に筋力がさらに強くなる超回復というもの考えながら行うのが近道です。つまり毎日毎日激しい筋肉運動をするのではなく2,3日インターバルを取って鍛えるのです。

そのためには運動によるタンパク質の減少に注意して、運動前の糖質の摂取と運動後のタンパク質の摂取を心掛けます。

また運動はあくまでも筋肉に刺激を与え、わずかな崩壊を引き起こすもので、筋肉が成長するのは筋を休めている時であることから十分な休養は大切です。

今年1月にソフトバンクの柳田選手が自主トレで毎日ゆで卵の卵白8個と鶏むね肉中心で炭水化物カットの高タンパク、低脂肪、低糖質の食事をしていることに対してダルビッシュ選手が苦言を呈したことがありました。

ダルビッシュ選手の言い分としては極度の炭水化物制限が筋肉を削り体脂肪の減少による弊害が出てしまうというものです。私もその通りだと思いました。

柳田選手の鍛え方は筋肉を見せるボディビルダーに当てはまる方法で、短期間勝負に適したやり方です。

短期間で筋肉をつけても骨や関節の動きがついてゆけず、関節近辺での炎症や疲労骨折、筋断裂の副作用が出てしまいます。

つまり、炭水化物を取らないと体はエネルギー不足に陥り、そのエネルギーを補うために筋肉から糖質を作らなければならず、結果筋肉が減ってしまうことになります。

また体脂肪もエネルギーを蓄えるために大切であり、脂肪の減らし過ぎは良くありません。野球のように長い期間戦い、バッティングや守備において強くて繊細な筋肉運動が必要な場合、十分な炭水化物を取りながらゆっくり筋肉量を増やすトレーニングが優先されるべきでしょう。

因みにソフトバンク柳田選手の5/16現在の打率は2割4分4厘で過去5年間において最低となっています。今からでも遅くないので食事内容を改めて早く成績を上げてほしいものです。

このように運動と栄養はともにリンクしており状況に応じて、食事内容や食べ方の工夫をしてある程度変えなければなりません。

そして、タンパク質と糖質の摂り方には基本があるので、そのあたりをおさえながら進めてゆくのが良いでしょう。

1日に必要なタンパク質は普通の人であれば体重1㎏あたり1gとされていますが、アスリートは2gぐらいが適当です。つまり、体重60㎏の人であれば60~120gは必要になります。

タンパク質は、朝食時、運動後、就寝前に必ず摂ることが大切です。朝は1日の始まりであり、栄養が一番不足している状態なのでその日に必要なタンパク質を摂ります。

運動後は壊れた筋肉が修復のためタンパク質を欲しているので、30~40分以内に摂ると効果的です。このとき筋肉のタンパク同化作用を促すためにも炭水化物を一緒に摂ることが大切です。

また、就寝後深い眠りに入り2時間くらい成長ホルモンが分泌され、体のメンテナンスが行われます。このときに十分なタンパクがあることが大事なので、温かいミルクやナッツを一緒に摂ると良いでしょう。

炭水化物は普通の人であれば体重1㎏あたり6gで、アスリートは9gぐらいが

適当であると言われており、やはりアスリートは多めの炭水化物が必要です。

食事は3食を基本とし 朝は前日の夕食後からの飢餓状態からのスタートなので、果糖たっぷりのフルーツ等だけではなく卵、納豆、牛乳などのタンパク質を取り入れることが大切です。

朝運動するのであれば炭水化物とタンパク質少量を摂ってからはじめ、運動後も炭水化物を摂ります。炭水化物は一度に大量に摂るのではなく運動前後にこまめに摂ることが秘訣です。

こうした工夫により筋肉のタンパク質が蓄えられ、筋力の維持ができます。

運動による身体活動量の増加はもちろん筋肉が担っています。

それにより総エネルギー量が増加し脂肪消費が増える際に、アディポサイトカインというホルモンの分泌が是正され糖・脂質代謝が改善するともに、体の慢性炎症が抑えられるといわれています。

慢性炎症は病気の根源なので、結果運動により病気を遠ざけることができます。

運動は運を動かし引き寄せるとはこのあたりにあるように思います。

タンパク質と糖質を上手に摂りながら運動を続けて健康という幸運を手に入れましょう。

photo: Phil Tognetti

脳腸相関は第2の脳といわれる腸の腸内細菌との連携プレーである

ストレスで胃やおなかが痛くなる、ストレスで便秘、下痢になるなど、誰もが経験します。

最近、消化管に器質的疾患がないのに、症状が慢性化する機能性消化管疾患が増えています。

それには機能性ディスペプシア、非びらん性胃食道逆流症、過敏性腸症候群、慢性便秘などがあります。

器質的に異常がないため病院を受診しても対症的に胃腸薬などが処方され、根治することなくQOLが低下したまま我慢をされている方も多いようです。

こういった状態は腸と脳との間のシグナル伝達の異常ととらえる考え方があり、脳腸相関の問題といわれています。

脳腸相関は脳から腸へのシグナルと腸から脳へのシグナルがあります。

またそれぞれ神経による伝達経路とホルモンなどの物質が血管内を移動する循環系の経路があります。

腸から脳への神経の経路は消化管内腔の粘膜細胞の刺激を迷走神経が感知し、延髄孤束核に伝える系と消化管壁内にある内在性知覚ニューロンから脊髄に入り視床―大脳皮質へと行く系があります。

過敏性腸症候群は脳から腸、腸から脳のどちらのシグナルの異常でも発症しますが、特に下痢型の場合、内在知覚ニューロンのセロトニンの5-HT3受容体に原因がありここをブロックすることで抑えることができます。

慢性便秘の多くは腸管の拡張を伴わない機能性便秘で、脳腸相関の不具合が関係しています。

最近、便秘症と神経変性疾患の関係において、便秘の人は便秘のない人に比べてパーキンソン病に6.5倍、多発性硬化症に5.5倍罹患しやすいことが分かりました。メタボの1.4倍、心血管疾患の1.5倍に比べてかなり高い値を示しているので、慢性便秘の治療はとても大切です。

京都府立医大の内藤裕二先生は ①全粒穀物、果物、野菜など繊維の多い食品の摂取、②速足で歩く、自転車に乗るなど中等度の運動、週に最低2時間半③水分を1日1000ml 以上摂る④食後の排便時間の確保⑤便意を我慢しないなどが慢性便秘解消の基本と述べています。

脳から腸への経路は副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)が視床下部-下垂体-副腎を活性化し副腎からのコルチゾールの分泌によりストレスに応答する系が知られています。

もう一つはCRFが室傍核や延髄の孤束核など中枢神経のCRF2受容体に作用し神経を通じて上部消化管の運動を抑制したり、CRF1受容体を介して下部消化管の運動を亢進させる系があることが分かってきました。

またCRF以外に外側視床下部の神経細胞で作られているオレキシンという神経ペプチドがあります。

これは迷走神経依存的に胃酸分泌、胃や大腸の運動を亢進させるといわれており、最近の研究では脳内のオレキシンのシグナルが低下することが消化管機能障害、睡眠障害、食欲不振、抑うつ状態などに関与していることもわかってきました。腸が第2の脳といわれる所以がこのあたりにあります。

ストレスを受けた腸管では、平滑筋刺激による腸管運動亢進だけでなく、腸内フローラにも変化が生じます。ストレスが消化管内のカテコラミンの分泌を増やし、このカテコラミン受容体を持つ大腸菌が増えることで腸内フローラの乱れが生じ、病原性が増強するといわれています。

また宇宙飛行士のフローラを調べた実験では細菌数が飛行前から変化し始め、飛行中に異常が進み、善玉菌のラクトバチルスやビフィドバクテリウムが減少し、悪玉菌であるエンテロバクテリアやクロストリジウムが増加していたとの報告があります。

このようにストレスは腸内フローラに対して大きな変化をもたらし、体に影響を与えます。

腸内フローラの中の体にとって良い菌である有用菌は、腸内の食物繊維から短鎖脂肪酸を作ります。

短鎖脂肪酸には酪酸、酢酸、プロピオン酸があり、酪酸には抗うつ作用や認知機能改善作用があるようです。

酢酸は腸から吸収されたのち肝臓から脳の視床下部まで到達しプロピオメラノコルチン神経細胞に働き食欲を抑制する方向に作用します。

プロピオン酸は肥満の人への投与実験で食欲の減少の他に体の脂肪量の減少とインスリン感受性を維持する働きをします。

まず腸から吸収されたプロピオン酸は門脈に入り門脈神経叢にある短鎖脂肪酸受容体(FFAR3)に結合し、腸と脳の間の神経回路を活性化させます。

活性化した脳細胞は遠心性神経回路を通じて腸間粘膜細胞にブドウ糖をつくるように働き腸内糖新生を促します。腸内でブドウ糖が作られることにより肝臓でのブドウ糖産生が減り血糖値は安定化へと向かいます。そしてインスリンの値が安定する結果、食欲も落ち着いてきます。

これは水溶性食物繊維の分解から始まり、腸から脳さらに腸へとめぐる回路が形成されて、さらにエネルギー代謝の調節に至るといった腸内細菌と生体の巧みな連係プレーです。

腸内細菌とメンタルの関係では、まず発達障害に関して、フィンランドのParttyらは乳幼児期にプロバイオティクスを与えられた群はプラセボ群よりアスペルガー症候群やADHD(注意欠陥多動性障害)の発症が有意に少なかったことを報告しています。

抑うつや不安に関して、フランスのMessaoudiらはプロバイオティクスのランダム比較試験においてプロバイオ摂取群が抑うつ気分だけでなく自覚的ストレス度の有意な改善が見られたことを報告し、TillischらはfMRIを用いプロバイオ摂取群が、不安惹起刺激による不安関連脳領域の活動性の減弱(不安にならなくなった)を認めたことを報告しています。

このように腸内細菌による脳の変化を客観的にとらえたことはとても重要で、腸内細菌とメンタルが大いに関係していることを示しています。

以上より、脳腸相関の安定化にはやはり良い腸内フローラの存在が大切です。

そのためにはヨーグルや漬物などで腸内細菌を供給し続けること、食物繊維やポリフェノール類をとり腸内細菌を増やすこと、そして腸内フローラを有用菌に変える納豆やみそなどの発酵菌を十分にとることが必要です。

また、運動を取り入れてストレスの少ない生活への改善、良質のタンパクやビタミンBや鉄などを多く含む食生活で脳に栄養を十分届ける工夫が求められます。

腸を良くしてあげれば頭が良くなり、頭を良くしてあげれば腸も良くなります。

photo: sott.net

安全に続けるためにもっとゆるゆるの糖質制限がおすすめ

今では多くの人に知れ渡った糖質制限。

飲食店でご飯を残す人が増えて、お店側もちょっと頭を抱えているとか。

このまえファミレスで近くの席にいたカップルの会話が少し気になりました「今、糖質制限中だしごはん半分残すわ!」と男性の声、「偉いね~」と女性の声。この二人の中では糖質制限はとても良いことだと捉えられているようです。

一方、最近糖質制限ダイエット推進派の作家さんが急死したことにより糖質制限は危険であるといった意見もマスコミを通して多々聞かれるようになりました。以前から糖質制限反対の意見がありましたが、ここにきてヒートアップしているように感じます。

数年前までは糖質制限という言葉はダイエットに取り組んでいる一部の人の間で使われているだけでしたが、今は日常会話に普通に使われており、私はこれほどポピュラーになるとは思いませんでした。もともと糖質制限ダイエットは2002年にアメリカ人のロバート・アトキンス医師が提唱した考え方で、炭水化物を制限する代わりに肉やたんぱく質はカロリーに関係なく、いくら食べても良いというものです。実際この方法をやってみると急速に痩せますが、その糖質制限の厳しさのあまり脱落する人や、肉や油の摂り過ぎでかえって具合の悪くなる人がでてきたために廃れてしまいました。また皮肉なことにアトキンス医師自身も最後は肥満になってしまったようです。

ただ、私は2002年当時、炭水化物のブドウ糖への分解のされやすさを示すにグリセミックインデックス(GI)値のダイエットへの応用とその効果を知り得たことで、アトキンスダイエットは理にかなった良い方法であるとずっと思ってきました。かつて一度私は2013年7月に糖質制限のブログを書きましたが、以来この考えは変わっていません。

現在、アトキンスの基本を踏襲し糖質制限という言葉に代わっていますが、その厳しさや方法が原因と思われる問題がでてきているようです。2012年のイギリスの報告では炭水化物制限を長期に続けると心筋梗塞や脳卒中になる危険性が高まるといわれ、アメリカNIHからは死亡率が高まると報告されています。

その一方で、糖質制限は糖尿病を改善し、運動との併用でロコモティブシンドロームを予防できることも報告されています。

もともと日本の1日に摂るべき栄養に関する考え方は1日に必要なタンパク質量、脂肪量を決めてから残りを炭水化物で補う方式のため、どうしても炭水化物が多くなってしまいます。

厚労省の日本人の食事摂取基準2015年版によると摂取割合は炭水化物57.5:脂質25:タンパク質16.5が適当であると示されています。これらは%エネルギーという値で1日に必要なエネルギーつまりカロリーの割合を元に計算されています。厳密にはこの値の求め方は年齢ごとの死亡率が最低な体格(BMI)が一番健康であると仮定し、このBMIを維持するためのエネルギー摂取量と消費量が等しくなるカロリーはどのくらいかを専門家が計算して出しています。

成人のタンパク必要量は0.65g/kg/日とされ、またあらかじめ目標値として脂質は25%と決められており、必然的に炭水化物、糖質は6割近くになってしまいます。低めのタンパク質の必要量設定に引っ張られる形で炭水化物の割合が多くなっている印象です。

例えば、成人男性で1日の必要エネルギーを2000kcalとすると6割の1200kcalが糖質になります。4kcalが糖質1gなので300gの糖質が必要量になり、ごはん一膳150g~180g中の糖質が60gくらいなので、1日にごはんは5杯食べることになります。

ちなみに糖質が体内の脳や腎臓で使われるための最低必要量は100g程度といわれており、また主に絶食時に機能しますが、筋肉のアミノ酸や中性脂肪のグリセロールから肝臓でブドウ糖が作られて補充されるので、1日に300gもの糖質摂取はやや多いと思われます。

しかし、あまりにも糖質摂取が少ないと脂肪酸からケトン体が作られエネルギー産生に使われます。最近ではケトン体の脳での利用やがん予防の栄養、神経の保護作用などいい面もわかってきています。しかし、ケトン体の血管内皮細胞への有害作用も示されてきておりケトン体オンリーでは注意が必要です。では、糖質摂取におけるほどほどの量はどのくらいでしょうか?

糖質制限を研究されている北里大学の山田先生によると一食当たりの糖質量を20~40gとし、かつ1日10gのスイーツを食べて、1日当たり70~130gの糖質にするという緩やかな糖質制限食を“ロカボ”と名付けて普及活動をしています。

そして、この糖質レベルではケトン体の産性を避けながら嗜好品も食べられるため有用な方法であると思われます。

ただ、緩やかと表現されていますが、糖質量を最大130gとすると1日にごはんを2膳は摂れるものの、それ以外の糖質はゼロになってしまうので、おかずの糖質(野菜や豆など)が取れなくなってしまいます。私としてはもう少し緩い基準でもいいと考えています。

私は6年程前から糖質制限をはじめて、ロカボレベルのスタートでしたが、かなり体重が落ちました。またそれ以前からウォーキングをしていたため体重が減りすぎたので、制限をもう少し緩くした経緯があります。

あまり糖質制限をしすぎたり、夜に適度な糖質を摂らなかったりすると困ったことが起こります。つまり睡眠中にエネルギーとして使うべき糖質が少なくなり、代わりに筋肉のアミノ酸から糖を作り利用されるので、せっかく運動で作り上げた筋肉が減少してしまいます。その結果、代謝が落ちてかえって痩せにくい体になってしまいます。

よって、運動を少しでもされている方であればごはんが朝夕に1膳ずつ食べられてかつ野菜や豆などのその他の糖質が取れる150g~200gのゆるゆるの糖質制限で長期間維持した方が、ストレスもなく健康的であると考えます。

もちろん肉やチーズなどのタンパク質は多めにとりますが、糖質もある程度とれているので、貪るような高脂肪摂取まで至らないレベルで落ち着いてきます。

実際、私自身ゆるゆる糖質制限を何の苦も無く続けており、体重の維持ができています。

つまり、厳密な糖質制限ではメリットもありますがデメリットもあることが分かってきましたので、メリットを最大限に生かすためにはロカボやそれよりももっと緩いゆるゆる糖質制限を取り入れる時期に来たかもしれません。

さらに効果を高めるためには野菜から食べて炭水化物は最後にする順番とGI値に基づきパンより米、パスタ、そして、うどんよりそばを選択する頻度を増やす大原則を忘れないようにしたいものです。

photo: diet.lovetoknow.com

いつまでも健康でがんにならないように緑茶を飲もう! 進む分子生物学的緑茶研究

私は毎日欠かさず緑茶を飲んでいます。

3年前、2013年5月に「緑茶を飲んでがん予防」というブログを書いた手前、ずっと続けています。緑茶には胃がん、肺がんの予防効果があって、そのカギを握るのが4種のカテキンの中のEGCG(エピガロカテキンガレート)であるとお話ししましたが、最近ではその仕組みがさらに明らかになりエビデンスも積みあがってきました。また、がん以外の病気や健康にも影響力を持つことが分かってきたので、今回はそのあたりをご紹介したいと思います。

もともと日本人は長寿であることから、緑茶を飲むことが病気の予防や長寿に影響を及ぼしていると普通に考えられます。

国立がんセンターの井上先生の研究では、1990年から始まった14万人の日本人地域住民を対象とした多目的コホート研究(大規模疫学研究)において男女とも80パーセントの人は毎日緑茶を飲用する習慣があることがわかりました。

続いて緑茶の飲用とがん、心臓、脳、呼吸器などの主要死因死亡リスクとの関連では1日2杯以上の緑茶飲用量が増えるにつれて死亡リスクが低下する傾向が見られました。またカフェインも摂取量に応じて同様に死亡リスクの低下がありました。理由としてカテキンによる脂質、血糖の調節、改善効果やカフェインによる血管内皮の修復や気管支拡張作用が死亡につながる危険因子を除去しているためと考えられています。

がんとの関連で、まず胃がんでは女性で1日5杯以上飲む人は胃の上部3分の1と下部3分の2で分けた場合、下部での胃がんの明らかなリスクの低下があり、胆道がんでは7杯以上飲む人に有意な低下がありました。前立腺癌では前立腺を超えて外に広がっている進行性と内にとどまっている限局性を比較したところ、緑茶の飲用が多いほど進行性のリスクの低下が見られました。甲状腺がんは少し変わっており、閉経前の女性では緑茶を良く飲む人ほど甲状腺がんになりやすく、一方、閉経後では良く飲む人ほどなりにくい傾向が見られました。そのほか大腸がん、肝がん、膵がん、乳がん、膀胱がんでは関連は見られませんでした。

疫学研究からは緑茶の効果は限定的な感じに受け取れますが、私は緑茶には少なからず抗がん効果があることが重要と思います。それには分子生物的な手法で研究を進める必要があります。

九州大学の立花先生は緑茶の効果を明確にして、さらに引き出そうと日々奮闘されており、今やカテキン研究の第一人者です。そもそもカテキンは巷で良く聞くポリフェノールという物質でありフラボノイドと総称される成分の一種です。そのカテキン類の一つであるEGCGは他のカテキンと比較して強い生理活性を示すとともに茶以外の植物には見いだされていないお茶特有の物質です。

体内には細胞を支持する基底膜があり、この基底膜を構成する糖たんぱく質にラミニンがあります。ラミニンは細胞接着因子でもあり、このうち67KDaラミニンレセプター(67LR)がEGCGの活性発現に関与する標的分子であることを立花先生は同定しました。

つまり、お茶の中のEGCGが細胞膜の67LRに結合することで様々な反応が起こるということです。

結合すると①アデニル酸シクラーゼの経路を介してがん抑制遺伝子の一種であるMerlinを活性化しがん細胞増殖を抑制します。

②NO(一酸化窒素)合成酵素を活性化しcGMPを増やすことで酸性スフィンゴミエリナーゼが活性化され、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導します。

③TLR4シグナル阻害因子であるTollipを発現誘導し、がんにより引き起こされている炎症反応を抑えます。

しかし、これらの実験はEGCGがある程度高い濃度で行われているので、生理的な低濃度では効果が不十分である可能性がありました。そこで、いくつかの物質を用いて何がEGCG活性を促進するのか実験が行われました。

まずはビタミンAの誘導体であるオールトランスレチノイン酸です。

これをメラノーマ腫瘍に用いたところ67LRを増やしEGCG細胞表面結合量を増加させて、その成長を抑制する効果が見られました。

続いて、EGCG活性化によるアポトーシス誘導にはcGMPが必要ですが、腫瘍に高発現しているホスホジエステラーゼ5(PDE5)はcGMPを減らしてしまうので、PDE5を阻害する物質が必要になります。

カフェインにはこれを阻害する効果があり、緑茶にもともと含まれているので有用ですが、ED治療薬のバイアグラにも阻害作用があることが分かってきました。そこでヒト乳がん細胞をマウスに移植したモデルにEGCGとバイアグラを投与したところ16日間で細胞が死滅しました。また、多発性骨髄腫や胃がん、すい臓がん、前立腺がんでも同様の結果が得られ、バイアグラとEGCGのコンビが、かなり期待できる物質であると考えられています。

またEGCG活性の増強作用はスフィンゴシンキナーゼ阻害剤との併用においても観察されます。スフィンゴシンキナーゼは、がんの血管新生を促進するので、強い薬以外にこれを阻害する食品があれば助かります。最近、大豆由来のスフィンガジエンがスフィンゴシンリン酸と拮抗し結腸癌の発生を抑える可能性も言われてきているので、もう少し研究が進むことを願っています。

現時点でEGCGを活性化させる食品の候補としてビタミンA、カフェイン、大豆が有力と考えられています。特に、ビタミンAを含むレバーやかぼちゃの摂取だけでは追いつかないので、ビタミンAに関してはサプリメントを用いることも大切です。

がん以外ではEGCGには抗アレルギー作用、LDL酸化抑制作用、インフルエンザ予防効果、認知機能の低下抑制があることがデータとして示されてきております。

つまり、緑茶が単なる健康飲料から薬効をもった飲料であると示される日が近づいてきているからでしょうか。

私たちの周りにはあふれるほどの健康食品がありますが、あれこれ手を出さず、じっとお茶だけを飲んでいるだけでも、かなりの病気を遠ざけることができると思います。

わたしはこれからも緑茶を飲む習慣をやめることなく、続けて参りたいと思います。

photo :富士山写真道楽