敬老の日は過ぎてしまいましたが、
総務省の発表では、9月15日時点での65歳以上の高齢者数は男性が1462万人、女性が1921万人のあわせて3384万人で、日本の人口の約27%を占め、数、割合ともに過去最高となりました。
また、厚生労働省によりますと、100歳以上の高齢者は6万1568人となり、初めて6万人を超えました。私が生まれたころの1963年には153人でしたので、かなりの増加です。さらに2050年には70万人に達するという予想もあります。
在宅医療の現場においても90代の患者さんの割合が増え、100歳越えの患者さんを診ることもあまり珍しくはなくなりました。
ただ、100歳に達することはそれほど容易なことではなく、その直前(96~99歳)、あと少しというところで天に召されることが多いため100歳のハードルは高い印象があります。
100歳越えの100~104歳の人を百寿者やセンテナリアン、105~109歳の人を超百寿者semisupercentenarian(SSC)、110歳以上をスーパーセンテナリアンsupercentenarian(SC)というようです。
これは慶応大学の広瀬信義先生と新井康通先生らが分類し研究を行っており、最近その興味深い結果が出てきています。
百歳にもなりますと高血圧、骨折、白内障、心臓、呼吸器、脳血管疾患など持病が97%の人にあります。
しかし、糖尿病だけが他の世代に比べ極端に少なかったのです。
この事実がきっかけで、原因を探っていくとアディポネクチンというホルモン様タンパク質が大いに関係していることがわかりました。
百寿者におけるアディポネクチンの血中濃度を調べてみるとほとんどの人で平均より高く、中には若い世代の2倍以上の値の人もいました。
このアディポネクチンは脂肪細胞から分泌されて、インスリン抵抗性を改善し筋肉内への糖の取り込みを促したり、抗炎症、抗老化作用を発揮します。
特に高齢になると炎症反応が高まる傾向にあり、その結果、栄養状態の低下、凝固系の亢進、貧血、サルコペニアが引き起こされます。
しかし、アディポネクチンの抗炎症作用によりこれらを抑えることができます。
つまりこの抗炎症作用が長生きをするためのkeyになります。
私の考えでは、百寿者とはアディポネクチンというプラチナチケットを手に入れ、さらに長生きできる好循環サイクルに入った方々ともいえます。
そこでアディポネクチンは脂肪細胞で作られるので、どんどん太ればよい感じがしますが、そううまくはいきません。
肥大化した脂肪細胞からはTNF-α、レジスチン、遊離脂肪酸などが大量に分泌され骨格筋でのインスリン抵抗性を惹起する一方で、アディポネクチンの産生分泌は低下してしまいます。
やはり太ると耐糖能障害から糖尿病になり長生きできない体になってしまいます。
百寿者を目指すのであれば、絶対に糖尿病にだけはならないぞという心構えが必要でしょう。
さらに新井先生らはアディポネクチンだけでなく細胞老化に関係するテロメアを百寿者やその直系子孫において調べて、面白い結果を導きました。
テロメアは染色体の末端に位置し細胞分裂のたびに短くなり、テロメアの長さは細胞老化の指標として考えられています。
高齢になるにつれテロメア長は短くなりますが、今回の調査では百寿者やその直系子孫ではテロメア長が長く保たれ、子孫の方の年齢が80歳代でも、60歳代の平均値に匹敵する長さを有していることが示されました。
また子孫の方のCRPやTNF-αなど炎症マーカーの値も低く抑えられていました。
つまり百寿者が遺伝的に次世代に引き継がれる可能性を高めているのは抗炎症にあると考えられます。
細胞は分裂を繰り返すと炎症を起こす物質や、タンパク質を分解する酵素を出し、自ら悪い環境にしてしまい老化が進みますが、免疫細胞においてもT細胞は何回も分裂するとサイトカインを放出し炎症を生じさせてしまいます。
新井先生は炎症が健康寿命を規定する要因であると述べており、慢性炎症はがんを引き起こす要因でもあるので、将来炎症を抑える方法として何が良いかを探すことが重要です。
アディポネクチンをアップさせるには有酸素運動や適度な筋肉運動が良く、納豆や豆腐などの大豆製品や青魚を摂ることも効果的と言われています。
抗炎症には、消炎鎮痛剤を飲み続けるわけにはいかないので、食品として以前紹介したクルクミン(ウコン)やEPA(青魚)、αリノレン酸(シソ油)、生姜がおすすめです。
さらに抗酸化作用のあるブロッコリ、トマト、ビタミンEを多く含むアーモンドなどを加えると良いでしょう。
出典:New England Centenarian Study