メタボの予防は腸内細菌が握っている

忘年会やクリスマス会で栄養たっぷりになった自分に言い聞かせるわけではないが、今メタボが増えています。

メタボリックシンドロームの該当者と予備軍の人数は国や自治体がさまざまな対策を講じているにも関わらず、2015年の目標だった1050万人に至ることなく現在は1412万人に増加しています。

BMI25以上の肥満の割合についても男性では31.2%から32.4%と増加しています。

メタボリックシンドロームは肥満(内臓脂肪型)、高血圧、高脂血症、高血糖を同時に持っている状態で、この状態が続くと動脈硬化が進み心疾患や脳血管疾患に陥ります。

生活習慣病なので食事や運動に気を付けることは分かっているのに、なかなか改善しません。

その要因の一つに腸との関係があるといわれています。近年遺伝子や、代謝産物の解析技術が進み内臓脂肪蓄積から引き起こされるメタボリックシンドロームにおいて、我々の腸内に住む1000種類の腸内細菌の内いくつかが重要な役割を担っていることが分かってきました。

10年ほど前に肥満者と標準体重の人の腸内細菌叢の構成に差があり、肥満者ではバクテロイデス門の菌が少なくファーミキューテス門の菌が多くなるとの報告がなされ、やせ菌、デブ菌と名付けられたこともありました。

しかし、この分け方が大まかすぎて最近では個人差、民族差、食生活の違いから必ずしもそうではないことが分かってきました。(細菌の分類は大きなドメインから→門→綱→目→科→属→種へと細かく分かれていきます)

腸内細菌叢を機能的観点から研究している慶応大学の菊池、入江先生によるとメタボリックシンドロームや2型糖尿病患者の腸内細菌ではLactobacillus属の菌が多い一方、短鎖脂肪酸産生菌であるRoseburia属やFaecabacterium prausnitziiが少ないこと、腸管バリア機能に重要なムチン層の維持に寄与するAkkermansia muciniphiliaが少ないことが分かってきました。

短鎖脂肪酸は難消化性多糖(ごぼう、こんにゃくなど消化酵素で分解されにくい食物繊維)が腸内細菌によって分解されることにより腸管内で産生されるもので酢酸、酪酸、プロピオン酸などがあります。

これらは腸管上皮細胞にあるGRP41や43などの受容体にくっつき腸管内分泌細胞L細胞からGLP1というホルモンの放出を促します。続いてGLP1は膵臓のβ細胞に表面の受容体にくっついてインスリンを分泌させます。また短鎖脂肪酸は白色脂肪細胞において脂肪の蓄積を抑制したりメタボリックシンドロームにならないような働きをします。

メタボリックシンドロームでは慢性炎症が存在していることがあります。慢性炎症は心臓病、アルツハイマー型認知症、がんなどの重篤な疾患の元凶なので注意が必要です。

心臓の冠動脈などの血管内では中性脂肪の増加から小型化LDLがマクロファージに取り込まれ炎症性サイトカイン放出による慢性炎症が起こります。

これとは別にLPS(菌の細胞膜構成成分のリポ多糖)が高脂肪食摂取後に増加することがありますが、LPSはエンドトキシンなので体内に入ると炎症を引き起こします。通常は体内に入らないのですが、動物実験などから腸内細菌の偏りができ、腸管バリア機能に重要な細胞と細胞のすき間を埋めるtight junctionタンパクやムチン層の減少が起こり、LPSが腸管から容易に体内に入りやすい状態になったためと考えられています。

よって乳酸菌が入ったヨーグルトや漬物などのプレバイオティクスも大事ですが、短鎖脂肪酸を作ったり、ムチン層で腸管バリアを高める機能が明らかになった腸内細菌がメタボリックシンドロームの予防や治療にはとても重要になります。

他に治療としては便微生物移植(FMT)が腸内細菌の多様性とインスリン感受性の改善に有用であったり、肥満者に行われる腸のBariatic手術が腸内細菌の組成をいい方に変え、特にムチン層の改善に関わるAkkermansia muciniphiliaを増やすことが分かってきました。

メトホルミンという薬は腸管ムチン層の増加やエンドトキシンの濃度の低下、インスリン感受性の改善に寄与します。陰イオン交換樹脂は腸管内の胆汁酸を吸着し血中コレステロールを低下させる他に腸内細菌叢の偏りを変えメタボリックシンドロームの治療に寄与します。

また、食事においては1日9時間以上の空腹の時間を持つことで腸内細菌の多様性が回復し、メタボリックシンドロームの発症の抑制に関わることが分かってきています。

食事の工夫と腸内細菌の機能を引き出して組成を考えることがメタボリックシンドロームの予防や治療に大切であると思います。

最近では小児のメタボも問題になっていますが、腸内フローラの形成は3歳までに行われるという意見もあり、5歳未満の肥満率が高いのは先進国に顕著で、より早期からの食事やプロバイオティクスをとるようにした方がいいと思います。

よって、若い時期から腸内細菌とうまく付き合うことでメタボとは無縁の体になるかもしれません。

photo: JeopardyLabs

がん悪液質の炎症は命と引き換えに消える

在宅医療では病気の治療の他に、お看取りをする仕事があります。

先日は直腸がんの患者さんを看取りました。がんが再発してから未治療な為、肛門付近から外に徐々に増大する様子がわかり、それとは反対に患者さんはどんどん痩せてゆきました。まさにがん細胞が自身の成長のために患者さんの体から栄養を奪い取っていく状況が目の前で繰り広げられていたわけです。

このように栄養不良で衰弱した状態を悪液質といいますが、悪液質は慢性閉塞性肺疾患、慢性心不全、腎不全などでも起こり体重減少、著しい骨格筋の萎縮を特徴とします。よってこの骨格筋の萎縮は高齢者に起こるサルコペニアとは別の病態です。

がんを起因とした場合、がん悪液質といい進行がん患者の約80%にみられます。

がん悪液質は進行に応じて前悪液質、悪液質、不可逆的悪液質と3段階あります。体重減少5%以下が目安とされる前悪液質では栄養サポートに反応するので、状態の改善が期待できて抗がん剤などの治療が継続できます。しかし、体重減少が5%以上になる悪液質では経口摂取が不良となり栄養サポートの反応も悪くなります。さらに不可逆的悪液質は栄養を与えても代謝が難しくなり、かえって栄養を控える状況になり生命予後が3か月未満になります。この終末期に食べられないのがかわいそうとご家族が点滴を希望される場合がありますが、逆にむくみや胸水、腹水、気道分泌の増加を引き起こし、苦しくさせてしまうこともあるので、ご家族と話し合いながらいつも慎重な投与を心掛けています。

がん悪液質は栄養不足の進行と慢性炎症が同時に起こっています。

栄養不足はタンパク質の異化亢進とされますが、最近では脂肪分解が筋萎縮より早期に見られることがわかり、脂質代謝の亢進も悪液質の要因となります。これらの反応を引き起こしているのがTNFα、IL1,IL6(インターロイキン6)などの炎症性サイトカインといわれています。サイトカインは様々な免疫細胞が協力し合う時に分泌されるタンパク物質で炎症性と抗炎症性がありバランスがとられています。しかし、がんが増殖するとがん細胞自身もしくはがんに対する免疫応答の結果として炎症性サイトカインが過剰分泌されるようになります。TNFαとIL1は細胞核内のNFκBを活性化しタンパク質分解を促し、骨格筋では筋萎縮を引き起こします。その結果、分解されてできたアミノ酸はがんの栄養になってしまいます。

脂肪細胞には白色細胞と褐色細胞があり、白色は脂肪をため込み、褐色は脂肪を燃やし熱を産生します。よってダイエットでは褐色細胞が歓迎されます。しかし、悪液質では本来褐色細胞にしかないUCP1というタンパク質をを白色細胞が持つようになり脂肪代謝と熱産生が亢進し血液中に脂肪酸が増えてきます。これらはIL6の刺激によるものとされ、その結果、増えた脂肪酸はがんの栄養となるばかりでなく筋肉の細胞にも取り込まれます。筋肉細胞に入った脂肪酸はミトコンドリアに入りβ酸化されますが、その際に活性酸素が発生し筋萎縮に至ります。このように脂肪代謝障害が筋萎縮をもたらすことが最近分かってきました。

また、悪液質は肝臓の働きを低下させIGF1(インスリン様成長因子)の生成を減らしてタンパク質の合成が低下します。よって筋組織においては合成より分解が上回り筋の萎縮に至ります。また肝臓でのヘモグロビン合成も抑制されるため貧血に至ります。

がん研有明病院の研究では血中のIL6値が高いほど生存期間が短いことが示されたことから、IL6を減らす何らかのアプローチが必要になります。

治療として抗炎症性のサイトカインやIL6の受容体に対するモノクローナル抗体の利用、または細胞内シグナル伝達を抑える方法などが考えられ、世界中で実験が行われていますが、十分な結果はまだ得られていないようです。

今できることは、前悪液質の段階での栄養サポートや筋肉温存のための運動療法の介入などが必要になります。

栄養サポートしては卵、大豆などのタンパク質摂取や筋肉を丈夫にするロイシンを含むBCAAアミノ酸の摂取、そして鉄不足に対するヘム鉄とB群の補充がkeyとなります。

また、慢性炎症を引き起こすω6系の食物は避け、抗炎症のω3系のEPA,DHAの積極的な摂取とミトコンドリアでの活性酸素に対してビタミンC,E、αリポ酸など抗酸化作用のある物の利用も大事です。漢方では抗炎症と抗がん作用のある半枝蓮と白花蛇舌草が役に立ちます。

根治はまだ先になるため、医療介護関係者は患者さんに寄り添い十分話を聞いて、少しでもQOLが上がるようなサポート体制を構築し維持することが現時点で最も大切であると思います。

photo: Business Insider

オーラルケアを腸活と共に続けよう

体の中には善と悪が存在する。というと少し大げさですが、私たちは悪性腫瘍は別として、善玉悪玉コレステロール、腸内細菌の善玉菌悪玉菌などのように便宜上分けていることに慣れています。果たしてLDLコレステロールは悪玉とされていますが、コレステロールを肝臓から末梢へ運ぶ重要な仕事を担っており悪といえるでしょうか?また腸内で悪玉菌といわれる菌も善玉菌とのバランスにおいて体内に常在しており、いざという時に肝臓で分解されるので、悪さばかりしているとは言えないと思います。口腔内にも善玉悪玉菌が存在しますが、この悪玉は悪さをすることが多く排除の対象となり、LDLや腸とは少し考えが異なります。

口腔内には700種類以上の細菌が存在し、長年の研究により歯の表面でバイオフィルムを形成しやすいある種の菌が悪玉と分かってきました。バイオフィルムとは風呂の排水溝のヌルヌル成分と同じ構造で菌とその代謝物に水が加わったもので、歯垢やプラークとも呼ばれます。その代表的なものが虫歯の原因となるミュータンス菌や歯周病の発症に関係するレッドコンプレックス(ポルフィロモナスジンジバリス菌、トレポネーマ、フォーサイシア菌など)です。

これらの菌は、歯肉の傷から血液中に侵入して菌血症を生じ、体内の様々な部位や臓器に異所性感染を引き起こします。心臓の悪い方が抜歯などの歯科処置を受けた後に感染性心内膜炎に陥るケースがあるので注意するといった医学的常識もあります。

在宅医療の現場でも口腔内の菌による誤嚥性肺炎や虫歯の放置による局所の炎症や発熱が時折見られるので注意をしています。

近年は研究が進み、口腔細菌と全身疾患との様々な関係も分かってきました。

特にポルフィロモナスジンジバリス菌はタンパク質中にあるアルギニンをシトルリンに変える酵素を持ち、その作用により変異したタンパク質を体が異物とみなして免疫による攻撃が始まり、関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患を引き起こすと考えられています。

また、菌血症により全身へ広がったポルフィロモナスジンジバリス菌が血管内皮細胞に付着し侵入することにより炎症が起こり、最終的にはアテローム性プラークを形成し、動脈硬化や虚血性心疾患を引き起こすといわれています。そして、膵臓がん、糖尿病、認知症、高血圧症、早産の発症要因になることも指摘されており、この菌の毒性には十分注意する必要があります。

対策として、全身疾患を予防する観点から口腔細菌叢の健全化を図ります。具体的には悪玉菌を除去し人に有用な菌を出来るだけ多く残すという方法がとられます。

鶴見大学歯学部の花田先生によると、まずは歯ブラシなどによる物理的除去、薬を使った化学的除去、プロバイオティクスによる生物学的除去、細菌検査を活用した免疫学的除去を組み合わせることが大切で、特に重要なのは歯の表面にバイオフィルムを形成しやすいミュータンス菌やポルフィロモナスジンジバリス菌などの悪玉菌の除去であると述べています。そこで、花田先生は個々の歯形に合わせたマウスピースに薬を塗り一日10分ほど装着させることで、口腔内の善玉菌は殺さず、歯の表面にいる悪玉菌を除去する3DS除菌法を開発しました。とても簡便で良好な結果がでており、今後ますます注目される方法です。

健康のために腸が大切といわれ、ヨーグルトや発酵食品を毎日とるなどの腸活が盛んですが、腸内フローラの乱れはさらに上流にある口腔内細菌叢の乱れが大きく関係していることも分かってきました。

私はもちろん以前より様々なヨーグルトをローテンションで取るようにして腸活に励んでいますが、最近は口腔内環境をより良くするためにPB3というサプリを追加しています。このサプリは健康な人の口腔内から3種類の有用な常在菌を取り出し作られたもので、善玉菌を取り入れて悪玉菌を抑え込むという考え方が基本にあります。

具体的には歯周組織に働くS(ストレプトコッカス).オラリス菌、S.ウベリス菌、歯の表面に働くS.ラッタス菌の3つが含まれており、これらを4週間摂取すると悪玉菌であるミュータンス菌やポルフィロモナスジンジバリス菌が減少する結果が2009年Zahradnikらによって報告されました。

朝起きた時の口腔内の変な感じは繁殖した細菌によるものといわれ、朝一にうがいをすべきとの意見もあります。しかし、PB3を夜、歯を磨いた後に口に含み、ゆっくり溶かすようにすると翌朝、口の中は明らかにすっきりして、うがいをしたいという感じには至りません。つまり、善玉が優位になり悪玉が少なくなっている状態を実感していると思います。

また口腔内環境と腸に良い物質としてラクトフェリンがあります。ラクトフェリンは歯周病菌の増殖を抑制する働きのほか、小腸のパイエル板に作用し免疫を高めたり、腸内細菌叢のバランスを改善します。

当院でも取り扱っているこの2つのサプリの摂取により、口腔から腸管の環境をより良い方向に導けます。

腸内環境の改善は病気になりにくい体作りの必須条件であり、健康増進の要となります。

今後、私たちは健康のために“口腔は腸管の入口”ということを意識して,口腔内の清潔や環境作りを心掛けることが大切であると思います。

photo: Illinois Times

MCIを知り認知症予防をはじめよう

日々の往診で感じるのは認知症の患者さんを介護しているご家族がとても大変であるという事です。患者さん自身は言った事をすぐに忘れてしまう、何度も同じ話が続く、家族は食事や排せつで手を焼くなど介護負担は枚挙にいとまがありません。

2012年の認知症患者さんは460万人で、超高齢化社会の到来とともに2025年には700万人になると予想され、何らかの手を打たない限り増加の一途をたどります。

認知症には6割近くを占めるアルツハイマー型認知症と脳梗塞などが原因となる血管性認知症、そしてレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症があります。

認知症は平たく言うと脳神経細胞にゴミのような物質がたまり、細胞が機能不全になり脱落してゆく疾患です。

アルツハイマー型の場合、脳神経の細胞内にタウ蛋白、細胞外にアミロイドβが蓄積します。レビー小体型では細胞内にレビー小体という蛋白の集合体が蓄積することで細胞障害を引き起こします。

私たちは現場において患者さんに認知症テストを行い認知症と診断した後、漢方薬や皮膚に貼る薬やアリセプト(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)やメマリー(NMDA受容体拮抗薬)などの飲み薬を処方しますが、著しい改善には至らず、なかなかうまく行かないのが現状です。というのも、いずれの薬も症状改善薬であり、神経変性の結果生じる神経伝達物質の枯渇を間接的に補充するだけなので根本的な治療ではないからです。

認知症発症時にはもうすでにアミロイドβが脳にたまりきっていることが分かっているので、アミロイドβの沈着や神経変性を遅延させるような根本的治療薬が、一刻も早く必要とされます。

そうした中、最も大事なことは認知症にならないように予防することです。

認知症になる一歩手前の疾患概念として軽度認知障害; MCI(Mild Congenitive Impairment)というものがあります。これは本人または周囲からの認知機能低下の訴えがあり、認知機能は正常でないわりに、認知症の診断基準は満たさず、少しのADL(日常生活動作)障害はあるものの基本的にADLは正常であると示されています。

MCIの特徴としては、同年代の他の人に比べて、物忘れの程度が強い、物忘れが多いという自覚がある、日常生活にそれほど大きな支障はきたしていない、物忘れが無くても時間や場所の把握、注意力、理解力、判断力、会話など認知機能の障害が一つでもあることなどです。

MCIの患者さんは2012年には400万人でしたが、2025年には同じ割合を当てはめると600万人近くになると予想されます。

一般的にMCIと判断するためにMoCA-JやCDRという質問に答える形式のテストがあり,比較的有用とされています。

MCIは記憶障害と言語、遂行機能、視空間認知の有無で4つに分けられ、将来どのタイプの認知症に進むのか予想することもできます。特に、記憶障害があるamnestic MCIと分類された場合は高率にアルツハイマー型認知症に進行するようです。

しかし、MCIになったらといって、すべて何らかの認知症になるのかというものではなく、正常に戻る確率は14~44%程あるともいわれています。

客観的な検査では、従来、針を背中に刺して脳脊髄液を取り、その中のアミロイドβ、タウ蛋白を測定する方法がありましたが、最近では血液中のapoA1,C3,TTRという3つのタンパク質の測定をしてMCIのリスク判定ができるようになりました。

このリスク判定は感度87%、特異度82%と高く、結果は健常から高リスクまで4段階で出てきます。またApoE遺伝子型検査を加えることで認知症の発症リスクをさらに知ることができます。

このMCI検査により自身のリスクを出来るだけ早期に知って、確実な予防へとつなげることが大切です。

認知症に関して若年期は15歳までに教育をして、中年期は高血圧、肥満、難聴に注意し、高齢期は喫煙、うつ病、低身体活動、社会的孤立、糖尿病に注意するなどで、認知症症例の1/3以上は生活習慣要因への対処により予防可能と報告されています(Lancet,2017)。

基本的には生活習慣病の予防ですが、特に糖尿病が危険と多くの論文で言われているので気を付けましょう。

予防法は他の疾患と同様に運動と栄養がkeyになるのは言うまでもありません。

最近のメタ解析で認知症の改善に運動は関係ないと報告がありましたが、予防という面に関して運動は有効です。運動によりネプリライシンという物質や筋肉から成長ホルモンの分泌によりBDNF(脳由来神経栄養因子)が増えてアミロイドβに対し抑制的に働くことがいわれています。65歳以上の高齢者を週3回15分以上ウォーキングなどの有酸素運動をした群としない群で6年調査したところ、有酸素運動により認知症になるリスクが大幅に低下した結果が得られました(Ann Intern Med 2006)。

また、金沢医科大学の認知症センターの入谷先生は運動と共に大事なのは何事にも興味を持って行動できる知的好奇心であると述べています。

認知症の予防効果の高い食品はビタミン、ミネラル、オメガ3,9系脂肪酸、ポリフェノール、レシチンを多く含むものです。また、お茶やコーヒー、オリーブオイル、ごまなど抗酸化作用のある物やターメリック、アーモンド、シナモン、ローズマリーなどアミロイドβとタウ蛋白の蓄積を阻害すると言われている物も推奨されます。

逆に控えるべき食品はトランス脂肪酸、オメガ6系脂肪酸、白砂糖を多く含む物、そして塩分です。

よって栄養面においてはこれらの取捨選択を日々地道に行うことが大切です。

 

最近よく耳にするフレイルという言葉は運動機能の低下と認知機能の障害で要介護状態に向かうことをいい、認知症を予防することがフレイルの予防にもつながってゆきます。

在宅医であり整形外科医でもある私は運動器の専門家として、フレイルという観点から今後は認知症予防への対応を進めていく必要性を感じております。

photo: NewScientist

隠れ疲労には抗酸化が大切

現在、国会で働き方改革についての議論が大詰めを迎えようとしています。

一億総活躍社会を目指す一方で長時間労働や過労死の問題をいかに解決してゆくかが大事な点です。

多くの方が悩まれていると思いますが、当院にも肩こり、冷えや疲れを訴えて働き盛りの女性が来られます。

疲労という言葉において“労”は心や体を使ってそのことに努めること、“疲”はくたびれて力が弱ることとされ、まさに疲労は働いた結果もたらされる体に良くないものとも言えます。

寝たり食べたりすることで日々うまく疲労を打ち消すことができる人がいる一方で、疲労が蓄積しているのになかなか気づかず、病気や死に至ってしまう隠れ疲労の人がいます。

隠れ疲労は大阪市立大学の梶本先生が提唱した言葉で、休んでも取れないグッタリの正体と説明しています。

隠れ疲労には以下の6つの重要なサインがあります。

1.何事もすぐに飽きてしまう

2.電車に乗ると、次の駅に着くまでに寝落ちする

3.起床4時間後に眠気やだるさがある

4.口唇や脇にヘルペスができる

5.夜中に何度も目が覚める

6.体臭がツーンとする

これらのサインの根底には脳の疲労、自律神経の問題、免疫力の低下、肝機能低下などがあります。

これを回復させようと栄養ドリンクやお酒を飲んだり、うなぎや焼き肉を食べたり、熱い温泉に浸かったり、運動でリフレッシュを望んだりしてもあまり効果がありません。

つまり、一時的に疲労感を軽くしても根本の疲労は取れないという事です。

最近分かった疲労のメカニズムは、まず仕事、運動、ストレス、睡眠不足など体に降りかかった負担が間脳の視床下部という自律神経の中枢に伝わります。続いて自律神経への刺激の増大により細胞周囲の活性酸素が増えて視床下部にダメージを与えます。その後視床下部から眼窩前頭野にその情報が伝わることで、「体が疲れた」疲労感として認識します。

自律神経は呼吸、心臓、血流、消化吸収など生命維持に関わっているのであまり負担がかかりすぎると生命の危機に至るため、前頭葉から体に抑制をかけるのです。

しかし、モーレツに働き過ぎの人は神経が高ぶり、ドーパミンやβエンドルフィンといった快感、興奮物質が眼窩前頭野の信号を打ち消してしまい疲労を疲労感として認識できなくなってしまいます。

この疲労感のマスキングがまさに隠れ疲労の正体なのです。

疲労に関係する物質として疲労因子FFが2008年に発見されました。

以前、疲労といえば乳酸が原因といわれていましたが、近年乳酸により疲れが生じることはなく、逆に細胞の疲弊を予防する働きがあることがわかりました。

FFは細胞の酸化によって血液中に増加し疲労感をもたらします。

また同時にFFに対して疲労回復物質FRが作られ、自身が酸化されることにより疲労回復をもたらします。

しかし、隠れ疲労においては活性酸素がFRを上回る勢いで発生するので細胞の傷が癒えず、機能障害や老化そして過労死などにつながります。

隠れ疲労に近い疾患としてアメリカでは慢性疲労症候群があります。これは半年以上にわたって極度の疲労感が続き、筋肉痛、リンパ節の腫れ、発熱などの症状があらわれて日常生活が営めなくなる疾患です。

特定の治療法はまだ確立されていませんが、マグネシウムやビタミンB群が有効なケースもあるため当院ではマイヤーズカクテルというB群が多く入った点滴を行っています。

隠れ疲労に対しては酸化が主な原因となるため抗酸化作用のあるビタミンC、E、アルファリポ酸などが適していると思われますが、梶本先生は23個の抗疲労物質から有効な4つの物質を探し出しました。

それはクエン酸、コエンザイムQ10、リンゴポリフェノール、イミダペプチドです。

中でもイミダペプチドは渡り鳥が休むことなく長距離を飛ぶための物質として発見され、すでに健康食品として販売されています。

イミダペプチドは体内で吸収時にβアラニンとヒスチジンに分解され、酸化が起こっている部位で合成酵素により再びイミダペプチドになり作用します。また、イミダペプチドは抗酸化作用、疲労因子FFの軽減、細胞に機能低下の抑制が実証された特殊な物質なといえます。

隠れ疲労に強い味方があり頼もしい限りですが、まずは休息し、睡眠の質や時間、自律神経の安定化などに取り組むことが大切です。

また食事の点からはタンパク質や抗酸化物質の摂取が大事ですし、

当院の琉球温熱でリラックスしながら点滴をすることも可能です。

 

最後に働き方改革は制度と健康が直結する問題なので、是非とも皆が無理をしないで働ける環境が作れるようにしてもらいたいと思います。

photo: Markovit