脳腸相関は第2の脳といわれる腸の腸内細菌との連携プレーである

ストレスで胃やおなかが痛くなる、ストレスで便秘、下痢になるなど、誰もが経験します。

最近、消化管に器質的疾患がないのに、症状が慢性化する機能性消化管疾患が増えています。

それには機能性ディスペプシア、非びらん性胃食道逆流症、過敏性腸症候群、慢性便秘などがあります。

器質的に異常がないため病院を受診しても対症的に胃腸薬などが処方され、根治することなくQOLが低下したまま我慢をされている方も多いようです。

こういった状態は腸と脳との間のシグナル伝達の異常ととらえる考え方があり、脳腸相関の問題といわれています。

脳腸相関は脳から腸へのシグナルと腸から脳へのシグナルがあります。

またそれぞれ神経による伝達経路とホルモンなどの物質が血管内を移動する循環系の経路があります。

腸から脳への神経の経路は消化管内腔の粘膜細胞の刺激を迷走神経が感知し、延髄孤束核に伝える系と消化管壁内にある内在性知覚ニューロンから脊髄に入り視床―大脳皮質へと行く系があります。

過敏性腸症候群は脳から腸、腸から脳のどちらのシグナルの異常でも発症しますが、特に下痢型の場合、内在知覚ニューロンのセロトニンの5-HT3受容体に原因がありここをブロックすることで抑えることができます。

慢性便秘の多くは腸管の拡張を伴わない機能性便秘で、脳腸相関の不具合が関係しています。

最近、便秘症と神経変性疾患の関係において、便秘の人は便秘のない人に比べてパーキンソン病に6.5倍、多発性硬化症に5.5倍罹患しやすいことが分かりました。メタボの1.4倍、心血管疾患の1.5倍に比べてかなり高い値を示しているので、慢性便秘の治療はとても大切です。

京都府立医大の内藤裕二先生は ①全粒穀物、果物、野菜など繊維の多い食品の摂取、②速足で歩く、自転車に乗るなど中等度の運動、週に最低2時間半③水分を1日1000ml 以上摂る④食後の排便時間の確保⑤便意を我慢しないなどが慢性便秘解消の基本と述べています。

脳から腸への経路は副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)が視床下部-下垂体-副腎を活性化し副腎からのコルチゾールの分泌によりストレスに応答する系が知られています。

もう一つはCRFが室傍核や延髄の孤束核など中枢神経のCRF2受容体に作用し神経を通じて上部消化管の運動を抑制したり、CRF1受容体を介して下部消化管の運動を亢進させる系があることが分かってきました。

またCRF以外に外側視床下部の神経細胞で作られているオレキシンという神経ペプチドがあります。

これは迷走神経依存的に胃酸分泌、胃や大腸の運動を亢進させるといわれており、最近の研究では脳内のオレキシンのシグナルが低下することが消化管機能障害、睡眠障害、食欲不振、抑うつ状態などに関与していることもわかってきました。腸が第2の脳といわれる所以がこのあたりにあります。

ストレスを受けた腸管では、平滑筋刺激による腸管運動亢進だけでなく、腸内フローラにも変化が生じます。ストレスが消化管内のカテコラミンの分泌を増やし、このカテコラミン受容体を持つ大腸菌が増えることで腸内フローラの乱れが生じ、病原性が増強するといわれています。

また宇宙飛行士のフローラを調べた実験では細菌数が飛行前から変化し始め、飛行中に異常が進み、善玉菌のラクトバチルスやビフィドバクテリウムが減少し、悪玉菌であるエンテロバクテリアやクロストリジウムが増加していたとの報告があります。

このようにストレスは腸内フローラに対して大きな変化をもたらし、体に影響を与えます。

腸内フローラの中の体にとって良い菌である有用菌は、腸内の食物繊維から短鎖脂肪酸を作ります。

短鎖脂肪酸には酪酸、酢酸、プロピオン酸があり、酪酸には抗うつ作用や認知機能改善作用があるようです。

酢酸は腸から吸収されたのち肝臓から脳の視床下部まで到達しプロピオメラノコルチン神経細胞に働き食欲を抑制する方向に作用します。

プロピオン酸は肥満の人への投与実験で食欲の減少の他に体の脂肪量の減少とインスリン感受性を維持する働きをします。

まず腸から吸収されたプロピオン酸は門脈に入り門脈神経叢にある短鎖脂肪酸受容体(FFAR3)に結合し、腸と脳の間の神経回路を活性化させます。

活性化した脳細胞は遠心性神経回路を通じて腸間粘膜細胞にブドウ糖をつくるように働き腸内糖新生を促します。腸内でブドウ糖が作られることにより肝臓でのブドウ糖産生が減り血糖値は安定化へと向かいます。そしてインスリンの値が安定する結果、食欲も落ち着いてきます。

これは水溶性食物繊維の分解から始まり、腸から脳さらに腸へとめぐる回路が形成されて、さらにエネルギー代謝の調節に至るといった腸内細菌と生体の巧みな連係プレーです。

腸内細菌とメンタルの関係では、まず発達障害に関して、フィンランドのParttyらは乳幼児期にプロバイオティクスを与えられた群はプラセボ群よりアスペルガー症候群やADHD(注意欠陥多動性障害)の発症が有意に少なかったことを報告しています。

抑うつや不安に関して、フランスのMessaoudiらはプロバイオティクスのランダム比較試験においてプロバイオ摂取群が抑うつ気分だけでなく自覚的ストレス度の有意な改善が見られたことを報告し、TillischらはfMRIを用いプロバイオ摂取群が、不安惹起刺激による不安関連脳領域の活動性の減弱(不安にならなくなった)を認めたことを報告しています。

このように腸内細菌による脳の変化を客観的にとらえたことはとても重要で、腸内細菌とメンタルが大いに関係していることを示しています。

以上より、脳腸相関の安定化にはやはり良い腸内フローラの存在が大切です。

そのためにはヨーグルや漬物などで腸内細菌を供給し続けること、食物繊維やポリフェノール類をとり腸内細菌を増やすこと、そして腸内フローラを有用菌に変える納豆やみそなどの発酵菌を十分にとることが必要です。

また、運動を取り入れてストレスの少ない生活への改善、良質のタンパクやビタミンBや鉄などを多く含む食生活で脳に栄養を十分届ける工夫が求められます。

腸を良くしてあげれば頭が良くなり、頭を良くしてあげれば腸も良くなります。

photo: sott.net

甘酒は腸内環境を整えるための力強い味方です

幼少の頃、お祭りで甘酒を初めて飲まされ、あまりおいしくなかった印象があります。

以後二三度口にしたものの、それ以上欲することはなく過ごしてきました。

そのころ飲んだのは酒粕を湯に溶かし砂糖を加えた甘酒だったので、お酒の香りが合わなかったのかもしれません。

しかし、医者になって7年が過ぎたころ酒粕についての本とめぐり合い、その効能があまりにも素晴らしかったため、好きではないはずの酒粕に興味を持つようになりました。

のちに基礎研究の機会を得て脊髄損傷の研究を始めましたが、その傍らで酒粕の研究も細々と行いました。ねずみと日々暮らす中で、ある時肥満ラットに酒粕を混ぜたエサを与えてみると中性脂肪の増加と体重増加の抑制作用があることがわかり、これを何とか形にしようと酒粕を飲みやすくしたSAKECAKEというサプリメントを作ったことがあります。今は製造しておりませんが、酒粕の力を埋没させるのはもったいなく、またの機会に作ってみようと思います。

最近は米麹を使った甘酒が人気のようです。

米に麹菌をつけ米麹とし、この米麹に水を混ぜて60℃で温め続けること6~8時間で、とろとろの甘酒ができます。麹菌が発酵過程でお米のでんぷんを分解しブドウ糖に変えるのでとても甘いです。甘酒にはブドウ糖の他に豊富なビタミンB群やアミノ酸も含まれており、「飲む点滴」「飲む美容液」などと呼ばれています。また8~10%アルコール分が含まれる酒粕と違ってアルコール分がゼロなので子供や妊婦、運転者も安心して飲むことができますし、カロリーも砂糖を入れる酒粕甘酒より低いため、カロリーの気になる方には良いでしょう。

一方、酒粕甘酒はアルコール分のことを除くと、米麹甘酒と比べてビタミン、アミノ酸、食物繊維の含有量が多く、何よりコレステロールの低下に関係するレジスタンントプロテインが含まれており栄養価としては上回っています。

甘酒と腸の関係において、甘酒に含まれる食物繊維やオリゴ糖が大腸に届くと酪酸菌のエサとなり酪酸菌が増えて酪酸を豊富に作ります。酪酸は制御性T細胞による免疫寛容に関与し過剰な炎症を抑えるため炎症性腸炎や喘息、アトピーの鎮静化の助けとなります。

また植物性乳酸菌を含んでいる場合には、それらが小腸に達した後、乳酸にて腸内を酸性にして蠕動運動を活発にするとともに乳酸菌が産生するバクテリオシンが悪玉菌を抑制し腸内環境を改善します。

生の米麹甘酒(生甘酒)では熱入れをしていないので、麹菌が作り出したアミラーゼ、プロテアーゼなど多くの酵素が活性のある状態で存在しており、腸における消化吸収を大いにサポートします。

先日の点滴療法研究会のワークショップにおいて桑島内科医院の桑島先生は甘酒を実際に患者さんに用いてその効果について発表されました。

まず外来患者さんに飲ませたところ便秘が最も多く改善し、夏バテや肌の改善、そして過敏性腸症候群やパニック、過換気症候群が軽快したようです。

続いて特別養護老人ホームの認知症、不穏、食欲低下や下痢などがある状態の悪い入所者7名に生甘酒を毎日一杯飲ませ3-4か月続けました。その結果7名中4名の全身状態が改善し、不穏と便秘、下痢の改善、食欲の増進によるアルブミン値の改善が見られました。

そして、この実験の途中、集団感染がおこり多くの方が発熱し抗生剤の治療を受けましたが、生甘酒を飲んでいなかった人に比べ飲んでいた人は軽症で済んだようです。

今度は生甘酒による腸内の変化を見るために、状態の良い方3名に生甘酒を毎日1杯1か月間続けてもらい、摂取前後の便検査を行いました。すると腸の炎症性マーカーであるカルプロテクチンの有意な減少と真菌のカンジダの減少がみられました。

これらから生甘酒が腸内環境の改善に少なからず関与していることが分かり、先の入居者の全身状態が改善したことは腸内細菌叢を整えることにより免疫力や精神機能の改善につながったものと思われます。

このような結果を導く生甘酒は大したもので、十分な利用価値があるといえます。

在宅医療の現場や私が理事をしている四街道の特養でも便秘の問題があり、今後は生甘酒の活用も必要であると考えています。

なるべく薬に頼らず、機能性の食品を利用し、自然な形で体調が整えられることはとても大切ですし、甘酒をより多くの方に使っていただきたいと思います。ただ、飲みすぎは、糖質の取りすぎにもなりますから注意が必要です。

話は変わりますが、このたびの会で久しぶりにソフィアイーストクリニック日本橋の尾崎先生とお会いし近況を伺うことができました。

尾崎先生はがん患者さんの腹水治療のスペシャリストです。CART(腹水ろ過濃縮再静注法)という腹水を腹腔から抜いて、細菌やがん細胞を取り除き、アルブミンなどが濃縮された腹水を再び点滴で戻す治療をしていて、私は腹水の患者様から相談があった際には、必ずご紹介する先生です。

ところがこのたび尾崎先生は2トントラックを改良し救急車を大きくしたような感じのCARTの設備を整えた車を作ったのです。つまり、通院できない腹水の患者宅まで自ら出向いてからこの車の中でCARTをしようというものです。外観はピンク色の背景に赤いハートがいくつか描かれておりとても目立つデザインです。

とてもユニークで日本ではオンリーワンであり、ますますの普及が期待されます。

このたびの点滴療法研究会は何名かの先生方に独自の治療法や技をご紹介いただきそれを学ぶ場でありましたが、皆さんに共通しているのは、患者さんのためにとことん努力している姿勢でした。

これからの個別化医療に対応するためにはこのような気持ちと技を持ち合わせることが大切であると感じました。

ただ、多くの検査法や治療法が日々増えているので、混乱が懸念されます。

私たち医師は有用なものとそうでないものを選別し、最短距離で患者さんに治療方法をお伝えする技量が必要です。

そうした中で私は食品を基本とし、それに新たな治療法を組み合わせる方法を選択し今後ご紹介して参りたいと思います。

photo: 田中酒造

ケトン食による がん 兵糧攻め作戦

かつて戦国武将たちは、さまざまな戦術を展開し、勝利した者だけが生き残れる過酷な世界にいました。豊臣の時代、黒田官兵衛らは鳥取城を陥落する際に兵糧攻めという方法を選択しました。本格的な攻めの前に城下にあったお米を倍の値段で買いあさりその地域の米の量を減らしました。その後、領民たちを焼き討ちなどで追い立て城の中に追いやったあと城を囲み外部からの食糧補給を絶ちました。城の中は4千もの人であふれかえり食料があっという間になくなり武力衝突することなく陥落したそうです。手間はかかるものの味方の損失はなく、まさに戦わずして勝つ優れた方法であったと思います。

銀座東京クリニックの福田一典先生はこの兵糧攻めという考えをがんの治療に応用しました。最近よく耳にする糖質制限に、脂肪を沢山とるケトン食療法を加えたのです。がん細胞の主な栄養源はブドウ糖であるので、これを断つことでがん細胞を兵糧攻めにして、正常細胞は脂肪から栄養を補給するというものです。
糖質の過剰摂取は体の細胞を糖化することで老化の進行や糖尿病、がんなどの多くの病気を引き起こします。糖質の摂取をなるべく少なめにすることはとても大切ですし、病気にならないための基本です。がん予防には糖質の制限とタンパク質と緑黄色野菜の摂取と適度な運動が好ましく、がんになってしまった場合にはケトン食を追加するという考え方です。
ケトン体とは、脂肪の分解途中でできる、アセト酢酸・βーヒドロキシ酪酸・アセトンを総称したものです。糖質不足や代謝の障害がおこると、体は糖質に代わるエネルギー源を脂質に求めるようになり、脂質の代謝が盛んになります。
体内の脂肪細胞に蓄えられた脂質(脂肪酸)は、肝臓に運ばれて、アセト酢酸に変わり、さらにこのアセト酢酸が変換されて、βーヒドロキシ酪酸・アセトンなどのケトン体ができて肝臓以外の各臓器でエネルギー源として利用されます。このように、血液中に増えたケトン体がエネルギーとして使われている状態を「ケトーシス」と呼びます。
ケトーシスの体を作るには、まず1日の炭水化物の量を、1日の摂取カロリーの5%に抑えます。例えば、1日に2000kcal摂取している人なら炭水化物の摂取量は100kcal(25g)以内にします。この状態を数日週続けると、体脂肪がエネルギー源として利用される「ケトーシス」となります。

がん細胞は無限に増殖する使命を帯びた細胞で、そのために酸素を必要としない嫌気性解糖系を選択し、ブドウ糖を原料に(ATP)エネルギーを作り、そのエネルギーをもとに自己の細胞構成成分を合成してゆきます。
ミトコンドリアを利用した方がATP産生量は多いのですが、大量の活性酸素が発生するので、酸素を必要とするこちらの系をがん細胞は選択しませんでした。
よってがん細胞の周りにいくら酸素があっても好気性呼吸を行いません。これはがん細胞内で低酸素誘導因子(HIF-1)が常に活性化し解糖系方向の促進とTCA回路方向の抑制が働いているためといわれています。
つまりがん細胞はブドウ糖の取り込みを常に亢進させていないと生きて行けない細胞であるともいえます。
一方、がん細胞はケトン体をエネルギー源として利用することはできないばかりか、ケトン体自体にがん細胞の増殖を抑える作用があり、脂肪の摂取は有用と考えられます。
どの程度まで脂肪をとることが可能か調べた実験で、健常人にカロリーの85%以上を脂肪で摂取するような食事を続けても内臓や運動機能に悪影響がないことが認められました。このことからかなりの量の脂肪を糖質の代わりにとることができます。

ケトン食療法は元々てんかんの食事療法としてかつて用いられた方法ですが、薬の進歩により使われなくなりました。しかし、てんかんに関連して脳腫瘍にケトン食療法を行ったところ抗腫瘍の効果が見られたことや、抗腫瘍効果が血中ケトン体濃度と相関した実験結果も示されたことから最近、がんの食事療法として見直され研究されるようになりました。

実際のケトン食療法は

① 脂肪として肝臓で代謝されやすい中鎖脂肪酸を使います。 オリーブオイル、魚油(DHA,EPA)、亜麻仁油、しそ油などです。具体的にはココナッツオイルや精製中鎖脂肪酸(マクトンオイルやMCTオイル)を1日に40~100g摂るようにします。(1日の食事の60%を脂肪にする)

②1日40g以下の糖質制限(ごはん一杯150gには50gの糖質があるので、1日1杯も食べられません。)

③タンパク質は体重1kgあたり1~2g摂ります。
基本的に脂肪:(糖質+タンパク質) を 3:2にします。
例えば糖質40g(160kcal)タンパク質80g(320kcal)の場合脂肪は180g(1620kcal)で合計2100kcal/日になります。

ケトン食の欠点は極端な糖質制限を行うので重度の糖尿病の方に行うことは危険で、また高脂肪、高タンパクになるので重度の肝障害や腎障害がある場合も難しくなります。主にⅠ型糖尿病でインスリン不足により脂肪の代謝が亢進し、血中にケトン体が蓄積し酸性血症により意識障害に陥る糖尿病性ケトアシドーシスがあり、ケトン体に良くない印象を持たれる方もあるでしょう。

しかし、実際はインスリンの働きが正常である限り、一時的に上昇したケトン体によるアシドーシスは血液の緩衝作用で正常に戻るため、ケトン体は安全なエネルギー源であるといえます。また高脂肪ががんの発生を高めるとの意見もありますが、これは高脂肪と高糖質が合わさった食事での話であり、低糖質では逆に発がんを抑制する実験結果も出ており、心配することはないでしょう。

断食やカロリー制限と違って栄養不足や体力低下に陥ることも少なく、副作用のほとんどないこのケトン食療法は、がん細胞の弱点をついたとても理にかなった方法です。がん攻略には標準療法の正攻法ももちろんですが、過去の武将にならい、がんの兵糧攻めも一考の余地があると思います。

photo: www12.plala.or.jp

すすむ個別化医療がそのうちがんの標準治療になるかもしれない

個別化医療やプレシジョンメディシン(精密医療)ということばが、特にがん治療においてよく聞かれるようになってきました。
今や2人に1人が罹患するがんに対して、医療者側は遺伝子解析など細かい検査により個々人に合う薬や治療法を提供する時代に入ったことを意味しています。
また、今の手術、化学療法や放射線治療など標準治療ではどうしてもカバーしきれない部分があり、それを新たな手法で補っていく必要があります。
その一つとして今や広く普及した分子標的薬があります。
分子標的薬はがん細胞に特徴的に発現しているタンパク質の分子を標的として、この働きをブロックすることでがんの増殖を抑える薬です。
がん細胞は自分で死ぬこと(アポトーシス)することなく、自ら栄養補給のための血管を作り、増殖し続け、その血管内に侵入し血流に乗って、遠くの臓器へ転移する特徴があります。これらはすべて異常な遺伝子から作られた異常なタンパク質による仕業です。
そして、この異常なタンパク質を攻撃するためにモノクローナル抗体や低分子薬などの分子標的薬が作られ、様々な種類のがんに用いられています。
分子標的薬は通常の抗がん剤に比べて髪の毛が抜けることや食事が全く摂れないなどのADLを著しく低下させるような副作用が少なく、治療成績も向上し進歩した感はあります。
しかし、全く効かないケースや、重篤な副作用が出現することもあり、またそのうち耐性も出てきてがんを制圧するまでには至りません。これは現時点でがんの特徴を厳密に調べ上げることが出来ていないためだと思います。
同じ臓器のがんでもそれぞれ遺伝子の異常部位や数が異なるため個々人でがんの性質が違います。どの遺伝子が本当に悪さをしているのかを見つける技術と、それに適した分子標的薬を選択する方法を確立することが早急に求められます。

分子標的薬とは別に、新たな手法として遺伝子に働きかける方法や免疫細胞に働きかける方法があります。
がんは突然がんになるわけでなく、例えば大腸がんでははじめ、正常粘膜細胞内のAPCという遺伝子が傷つくことで細胞が変化し腺腫ができ、さらにK-rasという遺伝子の傷で細胞が悪くなり隆起します。続いてがん抑制遺伝子であるp53が傷つくことで腺腫内にがんが発生、最後にSMAD4,PTENの傷で進行がんに発展すると言われています。
このp53やPTENの傷を元に戻そうというのが遺伝子治療の基本で、ウイルスの力を借りて体内に注入後、がん細胞のアポトーシスを導こうというものです。
ただし、この効果も限界があり現時点では、高活性化NK細胞を用いた併用療法や腫瘍が縮小した後に標準療法を加える方法がとられています。
将来的には目的の遺伝子を狙った位置に挿入できるゲノム編集という技術が確立すれば更なる効果が期待できます。

また新たに遺伝子治療と細胞療法が合体したキメラ抗原受容体T細胞療法:CAR-Tがあります。通常がんは自身の抗原性を隠し免疫をすり抜けようとします。CAR-Tはこの抗原性を認識する力を発揮するキメラ遺伝子を自身のキラーT細胞に遺伝子操作で導入した後、体内に戻す方法です。がんを殺す確率が最も高い治療法とされており、治療困難な白血病に対して9割近くの人を回復させました。しかし、自身のB細胞を攻撃したり、免疫応答に大切なサイトカインを狂わせる副作用がでます。今後この副作用が調整できれば、がん治療の強い味方になります。
一方、免疫細胞に働きかける方法としては最近話題のオプジーボ(抗PD-1抗体)を用いまたこれを応用した方法があります。がんはPD-L1という物質をつくり、がんを攻撃するT細胞のPD-1に結合することでその攻撃を免れています。オプジーボはその結合を阻みT細胞の攻撃を復活させる抗体薬です。現在、悪性黒色腫と非小細胞性肺がんへの保険適応があり、そのほかのがんには使用できません。

しかし、湘南メディカルクリニックの阿部吉伸先生は保険診療以外の形をとることで様々ながんに用いています。その施設ではオプジーボを少量ずつ投与することで副作用の発現を避けつつ、活性化NKT細胞との併用療法を行っています。
昨年の9月からの半年間に245人にこの方法を用いたところ約半数でがんの縮小がみられたと報告しています。
またオプジーボと似て樹状細胞の免疫のチェックポイント阻害を行い、さらに制御性T細胞を抑え込むことでT細胞の活性化を促すヤーボイという薬を追加した場合、8割の人にがんの縮小効果が見られたようです。
そして、この内容を報告していた阿部先生自身がもし自分ががんになったら真っ先に受けたい治療であると述べていたのは印象的でした。

ここ数年NK細胞や樹状細胞を用いた細胞療法が行われてきましたが、1,2種類の細胞だけでは効果の限界があります。
また樹状細胞の成熟には自然免疫のNKT細胞の活性化が不可欠であることやがんの原発巣と転移巣では抗原の出方が異なり、転移巣ではよりNK細胞の働きが必要であることが分かってきました。
このことからキラーT細胞、NK細胞、γδT細胞、NKT細胞、樹状細胞の5つをまとめて使う5種複合免疫療法も行われています。

さらに樹状細胞ワクチン療法を新たな方法で今まで以上に強化したエイビーバックス療法があります。これは日本での個別化医療の推進に尽力しているアベ・腫瘍内科・クリニックの阿部博幸先生が作り上げた方法です。
今まではショートペプチドでWT1など1つのがん抗原を樹状細胞に入れていましたが、新たに単球未分化増殖技術により樹状細胞を増殖させ、ロングペプチドにて4~6種類のがん抗原を樹状細胞に入れることで、がん細胞の多様性に対応した樹状細胞を沢山作ることができるようになりました。副作用も少なく、かなり効果のある方法です。当院でも取り入れたい方法の一つです。

現在個別化と言ってもさまざまな方法があり、何がある一人の患者さんに適しているかはまだわからない状況です。効果、副作用、経済的な問題も考慮するとさらに複雑になります。

この複雑さを少しでもシンプルにするために血液中のCTCs(循環腫瘍細胞)検査結果による治療法の選択というアプローチがあります。
CTCsは転移の原因となるがん幹細胞に相当し1ccあたり5個以上検出されるとがんの危険性があると判断されます。
さらにこの細胞の遺伝子、分子標的薬、抗がん剤、天然物による感受性試験の結果からその人に効く薬の選別が可能になります。つまり効かない抗がん剤で苦しむことがないように事前に判断ができるわけです。

こういった検査を利用して複雑に絡み合った問題を一つひとつ解きほぐしながらデータを積み上げていくことが個別化医療の基本であると思います。
この積み重ねがいずれ標準になり、今の標準治療の形が変わる可能性はあります。
現時点で私が思うことは、自身ががんになった時に何とかして化学療法を後回しにしたい。そのためにはCTCs検査をして、遺伝子治療やピンポイント放射線で縮小後、手術ができるならまず手術を行い、細胞療法、抗体療法の順で治療を行うことを考えています。
しばらくしてこの順番も変わる可能性もありますが、私としては体への侵襲が少ない順に行うことを基本にしたいです。

もちろん温熱とビタミンC点滴は初めの段階から使います。

photo; The University of Tokyo Hospital

健康のためにダークチョコレートをもっと好きになろう

今の健康ブームの中でチョコレートは脚光を浴びております。それを愛する人は多いと思いますが、私もその中の一人です。週に5回は夕食後、お茶と一緒にチョコをつまんでから床に就いています。
しかし先日、海外発の有名なチョコレート専門店で食べたチョコが全く私の口に合わなかったため、おいしいチョコを求めて蔵前まで行ってきました。

今年2月にオープンしたダンデライオンというお店で、元IT起業家の若者二人がサンフランシスコで創業し2店舗目を日本の蔵前に作りました。
この店内だけで世界各地から取り寄せたカカオ豆からチョコレートまで製造し、お客はその場で食することができます。
ここのチョコはカカオときび砂糖だけでできており、他の混ぜ物は一切なし。だからおいしく、お客さんがひっきりなしの状況でした。
メニューもホットチョコレートからブラウニーなどわりと豊富にあることも人気の理由のようですがそれ以外に、私は味わってみて自然に近いシンプルなおいしさを皆さんは求めているのだと改めて思いました。

カカオの木には“神様の食物” テオブロマ・カカオというギリシア語に由来する学名がつけられております。はじめは紀元前1000年ころより中南米で利用され、マヤやアステカの貴族の飲み物として珍重されていたようです。
16世紀にスペイン人によりチョコレートとしてヨーロッパに持ち込まれた頃、はじめは王侯貴族の飲み物でしたが、そのうち体にいいものであると考えられるようになり科学者がテオブロマと学名を付けて、19世紀には砂糖やミルクを加えることにより多くの人が食すようになりました。

カカオの木は赤道から緯度で南北20度以内の地域で栽培されており、ラグビーボール大の実を付けます。この実の中に白い果肉に包まれ約30~40個のカカオ豆があり、実から取り出した後、果肉と一緒にバナナの葉でくるんで発酵させます。1週ほどしてカカオ豆を砕きの皮を取るとカカオニブができます。
さらにカカオニブを炒めてから細かくつぶしていくとチョコレートの元になるカカオマスができます。
カカオマス100g中には脂質50g(オレイン酸32%、ステアリン酸31%)、食物繊維17g(難消化性食物繊維のリグニンが50%)、タンニン4g(ポリフェノール)、テオブロミン(苦み成分)1.3g、無水カフェイン0.1~0.2g、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅などのミネラル、ビタミンE、βシトステロール(植物ステロール)が含まれています。
このように豊富な栄養素を持つカカオマスがチョコレートに多く含まれるほど機能性を発揮するため70%以上のもの(ダークチョコ)が望ましいとされています。
愛知学院大学の大澤教授によると1日5粒25g(150kcal)のチョコレートを1か月ほど食べることで血圧が低下するそうです。
また先生は、別の認知機能の研究においてチョコレート摂取によりBDNFという脳由来の神経栄養因子が増えて今後認知症の予防に期待がもてるが、これらはみなカカオポリフェノールの抗酸化、抗炎症作用によるものと述べています。
つまりチョコレートの機能性の原動力となるのがカカオポリフェノールと考えられます。そこで各食品100g中のポリフェノール含有量を比較してみると、コーヒー200mg、緑茶115mg、赤ワイン101mg、ブルーベリー300mg、オリーブ346mg、ブロッコリー45mg、クルミ1215mg、アーモンド187mg、ココアパウダー3448mg、ダークチョコレート1664mgでチョコレートには圧倒的な量のポリフェノールが含まれています。
ポリフェノールはもともと植物が過酷な環境で生きてゆくために作り出した物質であるため、人が食すると苦みや渋みとして感じられます。
5000種ほどあるポリフェノールはお茶のカテキン類、大豆のイソフラボン類やレスベラトロールのスチルベン類など大きく10種類に分けられ、それぞれに得意とする機能を持ち合わせています。
特にカカオポリフェノールは強力な抗酸化性をはじめ、慢性炎症やアレルギー炎症の抑制、動脈硬化予防効果や発がん増殖抑制効果、先ほども述べた脳内機能増進効果など多種多様な機能性を持ち、研究対象としての注目が高まっています。
理想的なポリフェノールの1日摂取量が1500mgという意見がある中、お茶の水女子大の田口先生の研究によると日本人の1日のポリフェノール摂取量は840±403mgでコーヒーから47%、緑茶16%、紅茶6%、チョコレート4%の順でした。
一方フランス人では男性1280mg、女性1120mgでコーヒーからが40%、次いで果物そしてワインの順で、日本人の摂取量がやや少ない印象です。
そこで、もともとポリフェノールの多いチョコレートの割合を少し増やすことにより理想値の1500mgに近づける可能性があります。ダークチョコレート25gで416mgプラスできることを目安に取り入れてみてはいかがでしょう。

チョコレートにより糖尿病患者のインスリン抵抗性が改善したり、心筋梗塞の患者さんの心臓死亡率を減らしたり、またダークチョコレートで下肢末梢動脈疾患患者の歩行機能が改善したり、世界からチョコレートの効能効果が報告されています。
がん患者に対する報告はありませんが、動物実験レベルでは2012年にエピカテキンの含有量の多いココアがin vitroですい臓がん細胞の増殖を抑制した報告があります。また、最近ではココアパウダーの抽出物(プロシアニジン;ポリフェノール)が卵巣がん細胞の細胞内ROSレベルを上昇させることにより卵巣がん細胞をアポトーシス(細胞死)に導き、さらにがん浸潤に関係するpro-MMP2レベルを低下させた報告がありました。

このように期待が広がるチョコレートですが、糖分や脂質が多いため食べ過ぎるとメタボになるので注意が必要です。またミルクチョコレートは脂質以上のの糖質を含む場合が多いので、なるべくカカオ70%以上のダークチョコレートがおすすめです。

寒くなるこれからの季節はホットチョコレートで温まるのもいいですね。